再開と課題と解決策

日々雑感

工房完成の直後に故障した天井裏のファン。年内の完治が不可能となりました。
温度、サイズ、重量、そして接続の可否という条件から選んだ機種が受注生産品のため、1ヶ月半も掛かるとの事。ファンでこんなに手こずるとは思っても居ませんでした。年内にどうにかならないものでしょうか。いっそ、ファンも作ろうかな、という危険な発想が頭をよぎります。

そんなファン騒動の中、幸運にも今日までにセルフサービスにて臨時営業を2回することが出来ました。当日の営業中は一人でパンを焼いているため工房から離れられずお客様にご挨拶も出来ませんでしたが、工房から横目に見える多くのお客さんたちの姿にとても励まされました。

真夏から4ヶ月間の休暇、そして冬の臨時営業で再会。臨時販売にも関わらず本当に多くのお客様にご来店を頂き、誠にありがとうございました。

今後の課題
パンは一種類ずつ焼けた順に並べているため、次のパンの焼き上がりを再び待つための「並びなおし」が生じています。寒い中でのこのご不便は大変な事ですので、何かよい方法を模索中です。しばらくの間ご不便をお掛けしますが、ご理解とご協力の程、何卒宜しくお願いいたします。(現在はあくまでも臨時販売期間中です)

現在の公式な運営サイト
ここ"プロジェクトB"も、仕込が始まるとなかなか「土曜日の定期更新」が出来ません。工事状況の更新もほとんどなくなりました(とてもいいことですが)。このブログは休業期間中にお客さんと繋がる唯一のツール、工事の状況をシェアするための場所として開設し、工事完了と同時に閉鎖する予定でした。ところが気がつけばもう4ヶ月。営業許可が下りた絶好の「ブログを閉鎖する機会」を「突然のファンの故障」で逃した今、不定期更新の場として保持するのもいいのかな、と思うようになりました。

今の時代、始めるならインスタでしょ(大分遅いけどね)!?という声も聞こえて来そうですが、相変わらずスマホじゃないので不向きです。今年の夏、フェイスブック側の事情によりツイッターとの連携が出来なくなりました。これによりフェイスブックはベースベーカリーの管理外となり、現在公式に運営しているページは3つになりました。
  1. ほぼ更新の必要がない最低限のホームページ「basebakery.com
  2. 唯一の公式SNS、ツイッター「twitter.com/basebakery
  3. ここ「プロジェクトB
考えてみればメインのツイッターは大体いつも時間に追われながら投稿している気がします。こうしてPCの前に座ってブログに時間を持てるような、時間に余裕のあるパン屋を目指すためにもここを残す意味はあるのかな、と考え始めたこの頃です。

というわけで、これからしばらくは「毎週土曜日」と決めずに不定期にてプロジェクトBを更新してみようと思います。

臨時販売から見えた現状と課題

パン焼き窯からの蒸気が立ち込める早朝の工房

振り返ればあっという間だった、なんて言ってみたいけれど、長かったです。。。とっても。

ようやく「臨時」ではありますが、思うままにパンを焼かせて頂き、それを買いに来てくれるという「販売」にたどり着くことが出来ました。長い間待ってくれていたお客さんの存在にどれだけ救われたことか。寒い中並んでくださって本当にありがとうございました。

1回目の記念の臨時販売は、パン焼きの写真が一枚もありませでした。
手袋を外して1枚の写真を撮る20秒位の余裕もなかったようで、振り返るとそんな感じだったな、と思い出します。写真が無いのは残念ですが、凄く楽しかった。記録が必要ないほど思い出に残る良い一日でした。唯一の、それでいて最大の心残りは、お客さんに会えないことです。

極端なパンで幕開け
 最初の販売は「思い出に残るパンを」という想いから、それはそれは極端に、世界一極端に熟成期間をとったパンをメインに焼いて、円盤のようなパンが出来上がりました。おそらくだいぶ遠くまで飛ぶであろう、流体力学からみても完成度の高そうな円盤パンでした。その中に閉じ込められた旨みと甘みもまたパンとは思えないほど極端に多く、もう焼くことは無いだろうけれどまた食べてみたい濃蜜なパンでした。Bio古代小麦で焼いたこともあり「縄文カンパーニュ冒頭」の入り口を垣間見た気がしました。(試食に切った一切れを頂きました)

16日の2回目の臨時販売はキック名人が手伝いに来てくれたので写真が少しだけ残っています。

初対面・新品種の小麦 
 2018年度産新小麦・自然栽培「Bioつるきち」

2回目の臨時販売のメイン

中華麺用小麦として流通する「つるきち」をパンに使う珍しい試みで、日本で数軒、東京ではベースベーカリー1軒だそうです。麺にすると「ツルっ」とすることと、食べた人に「吉」が訪れるようにという願いをこめて命名された麦。もちろん奇跡の農場ピリカアマムの玄麦を自家製粉したものです。玄麦とは麦の粒のこと。すなわち種であり、雨を待つ命のことです。

玄麦から水だけで発芽した新芽

小麦粉からの脱却 
リニューアル後のベースベーカリーでは、全てのパンを生命力のあふれるこの玄麦から作ることに決めました。改修工事前は8割のパンが玄麦からの自家製粉で、残りの2割は「白い小麦粉」を仕入れていました。このプロジェクトB期間中の「バゲットの行く先(記事後半)」での試作体験をきっかけに「小麦粉は買わない」「全粒粉はフルイにかけない(間引かない)」という決心をする運びとなり、この事で100%自家製粉+100%BIO小麦という、さらに稀なパン屋となりました。具材がなにも入って無い、この命の粒だけで出来ているパンが、最も込めて焼いている「フォルコン」です。

2018 新小麦「BIOつるきち」のフォルコン 協賛:ピリカアマム

他、麦違いのフォルコンにフェアトレード認証をもらっている有機材料で作られたホワイトチョコと有機クランベリーを包んだパン。今年の夏までは白い小麦で焼いていたパンは、これから各種玄麦(いずれも有機栽培以上の品質)で焼かれます。白をあきらめたことで、香りはより香ばしく、味わい深く、ビタミン、ミネラル、食物繊維が倍増、農薬や化学肥料とも無縁になりました。見た目が小ぶりに仕上がるかな、と心配していましたが、古い窯の良い働きっぷりで問題なく焼きあがりました。

BIOディンケル古代小麦の玄麦から自家製粉したホワイトチョコ&ベリー

それでもまだ、この古い石窯に改良の余地がありそうなので、またプロジェクトを動かし始めました。

続プロジェクトB・大谷石の積み込み風景

一日焼いたら一日掃除の窯・・・
実はまた工事が再開しちゃいました。。。 

窯一部再塗装決定
古い窯に残されている高性能を生かすためには、想像以上のメンテナンスが必要なんだと身に染みる(身体に応える)この頃です。日々磨いている外装のステンレスこそピカピカですが、見えないところの老朽化は隠し様がありません。工場で「水回りのほぼ全ては新しく交換される」と聞かされていたものの、実際には一部しか交換されていなかったため、焼き続ければ相変わらずススや焦げカスが飛び出してくる問題が解決していません。

さらに、錆を十分に落とさずに塗られた塗膜が早くも剥がれ始めました。凹凸の上から塗られた塗料が浮いてきてハガレ始めています。今週はそのケレン作業(はがす下処理)と再塗装の再工事となります。床は全面養生。仕込みが出来ないので今週末のパン焼きは残念ですが見送となります。


工場で最初にきちんとした仕事が施されていれば防げた問題だと思うのですが、その時は「これで大丈夫」と判断したのでしょう。実際に運転してみないと分からないことがあるのも事実なのである程度仕方のないトラブルですが、それにしても大掛かりな解体が出来ない清潔な工房内での再塗装作業は非常に大変そうです。

結局は窯の搬入後も何度も修理と調整がつづいていて、まだ未完成です。ずいぶんと手を焼かされていますが、窯再生プロジェクトの名には偽りなし。プロの手に掛かっても、そう簡単には再生できないようです。これだけの時間と労働を投資してもまだ直らない窯。クセモノ中の曲者です。

工事で汚れるストレス、つづく
工事が入るたびに何度注意しても真っ白な壁を汚されます。プロなのだから言われなくても養生すればいいのに、なぜかしません。ガス屋さんが窯前壁を傷つけ、窯屋さんが壁や配電盤を汚し、道具をぶちまけては床をキズつけて帰ります。汚したことにも気がつかないので、毎回こちらが指摘するのですが、言える仲であっても、そういうやり取りはお互いに気持ちのいいものではありません。ここはあくまでも工房で、パンを焼く部屋で、きれいに保つべき空間なのですが、意識の違いはなかなか治りません。常盤塗装の完璧な養生を知っている今、こういう雑さがいい加減さに見えてしまい、とても残念です。こういうストレスから開放されるためにも、早く工事を終えてパン焼きに集中したいこの頃です。

それでもどうにか腐食を食い止め、衛生的な焼成を維持できるまでは工事が続きます。今後の方針について窯屋さんと話し合った結果「解体も交換もせずに調整だけでどうにかなるまで、どうにかする」という事になりましたが、いつそれが完了するのかは正直なところ、だれにも分かりません。調整と平行して、あえて過剰なスチームを発生させ、溜まっているゴミを出す作戦を始めます。

蒸気と一緒に噴出してくるゴミ


今は毎回が大掃除です
窯の温度が下がった翌日からは、窯の窓を工具で全て外し、実に地味で大掛かりなメンテと掃除が必須です。もはや連日焼くことは現時点で不可能です。こう書いていると、まだまだプロジェクトBは進行中なのでしょうね、。今現在の状況では臨時営業で連日販売が出来ない理由が、これです。当日は窯が熱いのでこんなことはできません。それゆえに翌日がこの仕事になってしまいます。


少しでも太ったら、この掃除が出来なくなる危機に直面していて、まさか窯にパン屋の体型まで制限されるとは思ってもいませんでした。脚立をつたってバンザイをしたまま入っていく姿は、とうていお見せできるものではありません。。。入る時と出るくる時のその怪しすぎる動きは、皆さんのご想像にお任せしたいと思います。

並びなおし問題の解決策

パンの品質を上げることばかりに意識が働きがちですが、お客さんにとっての買いやすさも同じくらい大切です。いまはリニューアル後の臨時販売と言うこともありますが、それにしても寒い中で並びなおすという不便は大変なもので、何とかしたいと真剣に考えています。しかしながら1人パン屋の限界と言うものがあり、パンを焼きながら整理券を配る時間は無く、配るとしたらセルフ販売は出来ず。問題の根本解決には時間が掛かりそうです。

最も有力な案:
全てのパンが焼けてから開店する!?

2年前まではそうでした。が、昼頃までオープンしないということは、待って下さるお客さんの人数も増えます。「全てのパンが揃っているのだからどれでも買える」そう思って並んでくださているお客さんの期待に応えきれず、無情にもパンは途中でなくなることがあります。「開店前から並んでいるのに買えない」という大変失礼な問題が発生するのです。焼ける数が少ない為に起きているパン屋側の問題ですが、量産の道は選択肢にありません。実に悩ましいところです。

焼けているのに売らないの!?
早朝の需要があるにもかかわらず、既に焼き上がっていて店頭に並んでいるパンを昼まで売らないというのも不自然な話です。ヨーロッパのお客さんもいらっしゃる、朝の需要の多いパン屋として、それは不親切な選択でもあります。遠くの有名店より近所のパン屋。そんな身近な町のパン屋でいたいので、具材のない食事パンから順番に焼いていき、「焼けているパンからどうぞ!」という朝から買えるスタイルは大事にしたいところです。

ベストはなくとも、ベターな方法はきっとあるはずです。寒そうに手と手をこすりながら次のパンのために並びなおしてくれている姿は、「うれしい、ありがたい」などと安易に喜べるものでは決してありませんでした。早急な対策が必要だと強く感じています。ご来店くださる皆様にはご不便をお掛けしており本当に申し訳ございません。

1人の頭ではダメな時こそ
そんな2回目の臨時販売が終った午後、頭の中はそのことで一杯でした。片付けも途中で放りだして人情の中華食堂、柴崎の「大雄」へ足を運び、午後の部までの貴重な休憩時間に相談に乗って頂きました。
「まずはお詫びとおことわりだよな。お医者さんでもあるでしょう、患者さんの様態によって順番が前後することがありますって。アレが書いてあるのと無いのとでは、待っている側の気持ちはだいぶ違うさ。だから、うちではこんなやり方をしています、ていうのを伝えることが先かな。」

人生の大先輩として、経営の大先輩として、アドバイスを頂きました。
すぐにどうにもならない問題というのはありますが、すぐに出来ることも見つかりました。灯台下暗しとはこのことなのでしょう。なんとかしなければと焦る気持ちから解決策ばかりに心が向いていましたが、まずはその気持ちを伝えること、そして今の現状をそのまま伝えることが先でした。誠に恥ずかしながら、大変遅ればせながら、次回より「おことわりとおわびの看板」を立てる事にします。
「1人パン屋のため、焼けた順番に1種類ずつしかパンを並べられません。次のパンの焼き上がりをお待ち下さるお客様には”並びなおし”をお願いしております。次のパンが焼けたら、並びなおしのお客様優先でお願い致します。寒い中でのご辛抱、本当にありがとうございます。

出来ることから
「並びなおし中のお客さん」を事情の知らない今来たばかりのお客さんが見れば、「この人は何で中に入らないのだろう?」と思う事でしょう。でも、この看板があれば、「ああ、これが、次のパンの並び直しか」と不便ながらも察してくれるかもしれません。

幸い、皆さんが仲良く情報を共有してくれているお陰で、「次はバゲットが焼けるみたいですよ~」「私は次のパンを待っているので、お先にどうぞ!」なんていう声が、工房に聞こえてきます。そこに甘えさせて頂いている一人パン屋として、まず出来ることは状況を看板で伝えることだと思いました。
 
お客さんからもご丁寧にアドバイスやアイデアを頂戴しており、とてもありがたく思っています。これからも不器用な販売が続くと思われますが、すぐに改良できる点は積極的に改良しながら、少しでも買いやすいパン屋で居られるように精進したいと思います。

年内の予定
年内に一度だけ、ライ麦パンを焼きたいと思っています。しかし、窯の工事やゴミ問題も残っており、スケジュール的に焼けるかどうかはまだ分かりません。また有機ライ麦の玄麦は現在日本に無く、早くとも来年1月未明まで入手できません。ベースベーカリーの抱えている僅かな在庫を使い切ってしまうと、ライ麦で育てている酵母のエサがなくなります。このエサ分を引いた残りで、僅かな数ではありますが、ライ麦パン(ライ麦100%)を焼けたらいいな、とかすかな希望を持っています。

粉も酵母もライ麦100%「晩餐」

もし幸いにも焼けることになったなら、アナウンスは引き続き「ツイートのみ」で投稿させて頂きます。パンオショコラも焼きたいし、カシューカレンズも焼きたい。。。でも、まずは今出来ることと、今優先すべきことを少しずつ、辛抱強くこなしながら、「パンが美味しいパン」を目指して歩みを進めます。

ベースベーカリーという「BASE」

山のBASE(キャンプ)では、そこに集う見ず知らずも含む人と人との間で新しい交流と場の共有が生まれます。山頂を目指すという一つの同じ目的の元にあつまる人たちは、国も年齢も性別も経験も言葉すら違えど気持ちは同志。思い思いの時間を過ごしながら英気を養う大事な場所です。


すこし大げさではありますが、ベースベーカリーにパンを買いに来る目的の元にあつまる人たちもまた、そんなひらけた同志であってほしいな、と思います。他のパン屋さんの情報を教えあったり、お奨めパンの情報を交換したり、美味しいワインの話だとか、パンの話題に限らず自由な交流の場でもあって欲しいと願っています。

1人パン屋兼ここのベースキャンプ管理人として、少しでも快適な場所になるように皆さんからのご意見を大いに参考にさせて頂きながら、下手なりにも整備を続けていきたいと思っています☆

整備までのみちのり

焼けるパンの順番をアナウンスできない理由
現在は窯が未完成ということ、そして煙突のファンが故障したことなど、ちょこちょこ工事が入り、設備も完璧ではありません。そんな中で、これまで焼いたことも無い「蕎麦パン」や「つるきち」をはじめとする2018Bio新小麦のパンなど、発酵時間の過去データがないパンばかりを焼いてきました。そのために何時に焼きあがるのかは不明で、事前のアナウンスが出来ません。前夜から工房に泊り込み、発酵状態を1時間~2時間おきにチェックしながら、そのままパン焼きの朝を迎えています。

例えば2回(2週)とも焼いた「酵母を食すノアレザン」は、麦の品種と酵母種を変えた事で発酵に2時間以上の時差が生じました。一度焼いているパンであるにもかかわらず、麦と酵母を変えるとコレだけ違ってくる世界です。市販イーストを使わない難しさと面白さが、作り手にも、買い手にも、不便を感じさせることが多々あります。

便利と不便
思えば市販イーストの歴史は美味しさを追求したものではなく、便利さの追求から生まれたものです。それを使わないパン屋が不便なのはある意味では当たり前です。時間に追われる現代人にとって正確な時間予測が立ち、早くパンが膨らむからこそ、市販イーストは全世界に広まりました。そんな便利さを捨てて、野生酵母だけで焼いているベースベーカリーです。不便なパン屋に通ってくださるお客さまには、酵母一同心より感謝しております。

不便の解決策
今後設備トラブルが解決し、麦もアレコレと変えず、おなじ品種の麦で同じパンを同じ数だけ焼き続けることで、ルーティーンが見えてきます。だいたい何時に何パンが焼けるのか、それは同じ事を続ける事で少しづつ見えて来るものです。今は臨時販売なので毎回違うパン。ひとつとして同じパンは焼いていないので、毎回がライブ状態。ルーティーンは存在しません。

落ち着くまでのしばらくは「ライブ」が続くと思いますが、改装と窯再生を経て新しくなりつつあるベースベーカリーをこれからもよろしくお願い致します!

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