冬の旅。地下の小麦。

【今後の販売スタイルについて】

この2ヶ月間、臨時販売という形で試行錯誤の営業を続けた結論として、パンの販売は土曜日と日曜日の週2日間とさせて頂くことに決めました。

土曜日は11時から小麦のパン。
日曜日はライ麦のパンだけ。
日曜日の開店時間についてはもう少し回数をこなして判断したいと思います。
 パン焼きの日は毎回必ず告知 。
お休みは不定休。

そのうち土曜日に余裕が生まれたら、ほんの数本だけでもライ麦パンを並べたいと思っています。

小麦粉を買わなくなった本年度から、当然ながら自家製粉の量が一気に増えました。これに伴って古代小麦の手選別にも多くの時間が必要となりました。また、窯の特性と性能を活かす為に、パンを焼く日を減らして1日に焼くパンの量を増やすことが、コスト、効率、クオリティー(焼き加減、香り、生地の食感)の面でも優れることが分かってきました。

販売日が1日減る(平日の販売がなくなる)ことにより、ご不便をお掛けすることと思いますが、パンの質を上げるための「プロジェクトB」の現時点での結論です。ご理解とご協力をいただければ幸いです。

パン焼き人の想いとしては、平日しか買えないお客様にも食べてもらいたいです。この心苦しさをいつか解消できる日が来たらいいいなと思っています。「平日だけ数量限定で予約制」という案も無いわけではありませんが、土日の週末に早くから並んでくださっているお客様のことを想うとやはり「平等」に徹したい気持ちが勝ります。

二兎追うものは・・・

そうならないように、現時点では悩みに悩んだ末に、週末2日間(土・日)だけの販売に限らせて頂くことにしました。

窯、再工事決定の悲報

3月に再び「窯」の工事が始まります。今回は一部解体と搬出も必要な工場修理となるため、3月16(土)17(日)のパン焼きはお休みとなります。修理が長引く場合はなるべく早く告知いたします。
 (休業日は必ずツイート致します)

どこまで。どれだけ。
度重なる調整と工事、、、この煩わしさは、ビンテージの道具に頼るパン屋の宿命なのかもしれませんが今回の修理は初期修理がいい加減だったために起きている問題です。症状が出る度に何度も修理に来てくれては居ますが、結局のところ厨房で出来る小手先修理では問題の根本解決ができずにいました。そこで今回はしっかりと工場で直してもらう約束をしました。これまでの事があるので今回も期待半分ではありますが、プロとしてきちんとした仕事をしてもらい、気持ちよくパン焼きが出来る日が来ることを願っています。

プロジェクトBを通してたくさんの会社、職人さんと関わってきました。やはり感じることは、仕事への込め方の違いでしょうか。人の仕事の優劣を語るつもりはありませんが、色々な姿勢を見れたことで、自らの取り組み方を再考できたことは幸せでした。

実は今、工房の床コンクリートには大きなヒビが日々成長しています。
あれだけ左官屋さんが綺麗に仕上げてくれた床ですが、肝心なコンクリート屋さんの配合が、どうやら甘かった。窯の重量も伝えたはずですが、用意された材料の実際の強度が足りなかったようなのです。いまさら全面やりかえは出来ず、どうヒビを埋めようか考え中です。

手塩にかけて育ててくれて生産者さん自らが磨いてくれたピカピカの麦を見るたびに、自分はこの麦の可能性をどれだけ引き出せているのか、もっと美味しいパンに出来るのではないか、そんな正解の分からない不安と疑問がよぎります。仕事に対しても、遊びに対しても、 どこまで出来るか、どれだけやるか。この難問の答えは自分の気持ちの中にみつけるしかないのかもしれません。やりすぎてつぶれることの無いように、やらなすぎてつぶされることの無いように。なによりも、やりたいことが、やりたいだけ、やれるように。


冬。旅。麦。

景色は旅。話題は発酵の羽田空港。

 まだ暗い早朝の空港では発酵について話し合い、宿に着いたら東京に残して来た酵母の話し、帰りの飛行機ではもうソワソワしっぱなし。帰宅してすぐ醸造所に戻るビール屋と酵母継ぎに戻るパン屋の冬の旅です。

北海道のその景色は非常に衝撃的でした。道路に雪が無く、ぬれてもない。カラカラに乾いたアスファルトの脇には、例年と比較にならないほどの少ない古い雪。降雪のないまま強風で叩かれ続けた斜面はカリカリで、2月のそれとは到底思えない状況でした。仕事を離れて遊びに来たものの、現状を目の当たりにして小麦の今がとても心配になりました。

まるで春の道。ガッカリ中のビール屋とパン屋をボード片手に撮る名人。

小麦生産者さんのブログにあるように、積雪がほぼ無いまま2月を迎えました。そして2月になっても尚、降雪が少なく、積雪が増えません。 このことが土壌凍結の震度を深くし、その度合いによっては地下に眠っている小麦の育成に大きく影響しかねません。例年であれば十分な雪が畑を覆い、凍結から守ってくれているのに。。。

麦のあかちゃんは無事なのでしょうか。今年の7月8月にはその影響が収穫と言う形でわかります。どうか皆さんも無事に収穫できるように、麦が育つようにと1秒だけでも祈ってください。祈りがたとえ未来こそ大きく変えられなかったとしても、何らかの形で届くものだと信じたいです。

25日の最新情報で畑の麦の写真がみれました。芽が茶色く変色していてなんとも痛々しい姿ですが、このホクシン(小麦の品種)はまだ、生きているようです。「痛々しい」ではなく「たくましい」と褒めるべきかもしれませんね。収穫まであと5ヶ月間、頑張って欲しいです。

雪遊びはというと、それはそれは暑くて、雪はカリカリ。2月の北海道で春を味わうことになるとは想像していませんでした。連日降雪がないので新しい雪も残っておらず、日中の気温上昇で表面が溶かされ、夜から早朝にかけての冷え込みで凍るのです。いっそのことスケート靴の方がいいんじゃないか、そんな冗談が本気に聞こえるような箇所がたくさん見受けられました。ゴーグルはあくまでも雪除けではなく、サングラスとして役立ちました。そんな旅の途中の半日ほど、予報を欺くように勢い良く降り出した雪がわずかに積もりはじめました。

それでもアスファルトはなかなか隠れません

 街中を期待させた奇跡の降雪もむなしく、翌朝は晴天の春。降ったり止んだりでなんとか積もった量も極わずか。山頂へのハイクアップはあきらめて山の中の木々の間にだけ残されている雪をさがしてクルージングです。

わずかに残る昨晩の雪を追うパンを焼く人、を撮る名人。

ザックに入っている全ての山道具は出番も無く、終始背負いっぱなしでした。それにしても積雪が足りないので、小さな木やコブ、大きな木の根らしきものが斜面から飛び出しており、緊張感のある遊びとなりました。一見、よさそうな雪ですが、数センチ下はカリカリの固いバーン。その起伏もデコボコでした。

わずかな林間も縫いながら滑降するビールを醸造する人、を撮る名人。

この連休中に酵母をさわれないので、出発前は相当、相応のメンテナンスをしてきましたが、それでも帰宅すると当然の様に酵母がふてくされています。すぐに製粉から始めて飛びきりの鮮度の粉をエサに酵母と付き合うこと3日目。ようやくご機嫌が回復しました。現地ではジャガイモの生産者、小麦の生産者さんの話も聞ける機会がありましたが、皆この雪の少なさを心配していました。それでもピリカアマムは自然栽培という別格。毎年同じじゃないのは当たり前という事実と、ダメかもしれないという緊張感をその農法ゆえにどこよりも体感している生産者さんです。そんな彼も今は何もできず不安を抱えて過ごす季節です。ただ祈る以外、人に出来ることははなにもありません。

一期一会の麦を楽しむパン
ピリカアマムでは種をまく品種も毎年同じではなく、ベースベーカリーが今期積極的に使っている麺用品種の「Bioつるきち」は、来年は無い小麦(今後ずーっと無いかもしれません)、つまり今期で食べ収めの品種となりそうです。その年に、その時に縁ある麦をパンにする楽しみと喜びはとても大きいのですが、麦が変わるたびに水分量がかわり、タンパク値が変わり、製粉の仕方が変わり、発酵温度が変わり、レシピを書き直す手間とリスクを受け入れることはなかなか大変なことです。量産主体の忙しいパン屋さんでは出来ない遊びです。今年の夏頃、この冬を乗り越えてくれた麦はどんなパンになるのでしょうか。

多くの作物が雪の下で堪えている冬の畑

この冬の土壌凍結によって、雑草は減ってくれるのでしょうか。そしてなにより、麦はこのまま生き残ってくれるのでしょうか。厳しい環境を生き延びた麦はきっと、生命力の強い美味しい麦のはず。と勝手な期待を膨らませながら、ただ見守るだけの冬です。その年の麦がどんな麦であれ、それで焼いたパンは毎年特別なパンです。日常食のパンに対してあまりにもロマンチックが過ぎるかもしれませんが、ボジョレーヌーヴォーの様に「今年の麦」を楽しむ感覚をこれからも大切にしていきたいと思っています。

見えないものに想いを向けるむずかしさ
昨年の雑草抜きの記事を知ったお客さんから「自分にも何かできることは無いのでしょうか」との声を頂きます。とてもありがたいことで、感謝していますがベースベーカリーではツアーとか勉強会などは考えていません。それぞれの想いを大切に、それぞれのペースを大事に、なにより生産現場に負担を掛けずに、皆がいい時間だったと思えるような「食への参加」が可能ならベターな方法を考えて決行したいと思っています。

収穫は祭りです。多くの人が待ち望んでいる瞬間で、皆が見たがるし、行きたがり、声を掛けなくとも集まります。でも、今こそ心配で祈らずにいられない季節です。パン屋である自分も含めて多くの人が祈らず、願わず、麦への想いを忘れがちな「麦任せ」な季節です。カンブリア紀をきっかけに目の進化を手にした生物にとって、見えないものに想いを向けることはとても難しい事となりました。また雑草抜きの様に地味で忍耐の必要な派手さの無い仕事に足が向かない事も同様でしょう。自分に何かできること、ベースベーカリーになにかできること。祈ること以外にそれが見えた時には小さく声をかけてみようかなと思います。

冬の景色も、麦の未来も、天気次第なのだとしみじみと感じた今回の冬旅。人は想像力豊かな生き物で本や活字からでも多くを学べる優秀な脳を持ってはいますが、現場で感じる事でしか得られない「実感」の尊さについて、アンヌプリの森に教えられた旅でした。

コメント

  1. やり過ぎてつぶれないよう。やらなさすぎてつぶされないよう。なによりも、やりたいことがやれるよう。心に染み入りました。経験して、学ぶことの大切さ、現地、現場の伝える情報に、謙虚に立ち向かう、そのお心、伝わり、嬉しくなりました。これからも、頑張ってください。

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  2. ありがとうございました。毎回生産者さんから麦粒を送ってもらうようになって、そのありがたさを日々感じています。そもそもパン屋は小麦生産者さん依存の職業なのだということを実感することで、パンも変わってくるような気がしています。お客様から頂く感想も、1人パン屋にはとても参考になるありがたい情報ですのでお気づきの点は是非教えてください☆
    今後とも宜しくお願いします。

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