ゾウ使いになる日


新年あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


2019年は営業形態とパンの種類を見直しながら、これまで以上の品質のパンを焼き続けられるように試行錯誤していきます。フィットする方針を見つけて落ち着くまではツイートで販売日を告知する「週末不定期販売」とさせて頂きます。

ご不便をお掛け致しますが、ご理解とご協力の程よろしくお願い申し上げます。
 
アッという間に2019年となりました。
昨年を振り返ると、「工房改修と窯再生」しか見えないほど、工事、工事、工事の一年でした。

喜怒哀楽の全てを刺激するドタバタ、自然と手伝いに集まってくれたお客さんや仲間と始まる、大工仕事の後の宴。常盤塗装をはじめとする職人さんとの出会い、業務用エアコンを自分で取り付けたトラウマや搬入後にいつまでもつづく古い石窯の修理と調整。そしてなんとか漕ぎ着けた臨時販売での久しぶりのお客さんとの念願の嬉しい再会。嘘のようなタイミングでの煙突の排気ファンの故障と工事再開。。。

そんな濃厚な日々を様々な形で支え続けてくれてたお客さん、友人、生産者さんには心から感謝しています。本当にありがとうございました!今までよりも少しでも質の良いパンを焼くことで、少しずつでも恩返しが出来ればと思っています。

新年最初の麦、アガシェ・レ・パッションス!

ダイオウ抜き=「アガシェ・レ・パッションス」
品種:Bioはるきらり
2018年の夏にはまだ新芽だった「はるきらり」。上の画像の左上に少しだけ束が見えるでしょうか。広々とした麦畑で自然栽培ゆえの途方もなく続く雑草抜きに興じた思い出の麦。雑草を抜く!=アガシェ・レ・パッションス!フランスのお客さんにそう教えてもらって、これを合言葉に抜き続けたパッションスたち。2018年、はるきらりの畑に大発生してしまった強雑草のダイオウ。いったい何百本抜いたでしょうか。畑の脇にはダイオウの山がいくつもできました。


強雑草意外は抜かず、タンポポも咲かせておきます


雑草という人間都合のくくりの元、麦と同じ生命を正義感を持って抜くという労働。パッションス(ダイオウ)達にとっては大変な迷惑でしょうが、そんな難しいことは考えずにひたすら抜き続けたお蔭で元気に育ってくれた麦「はるきらり」が、ようやく届きました。麦の個性を存分に楽しめるフォルコンにして今年最初のパン焼きで販売予定です。皆さんと同じ日に、この景色を思い出しながら食べてみたいと思っています。

2019 Bio はるきらり 新年初製粉

 窯問題、人色々
ご存知の通り、窯にまだ、だいぶ手を焼いています。年末も朝の10時から夜8時まで窯屋さんが直しに来ていました。気の毒にも思いましたが、本来は工場で事前にチェックして直しておくべき問題でした。前回の塗りなおしも同じですが、搬入据付後の工事は本当に大変で、工房も汚れます。

この日は朝から、間違って接続されていた配線をやり直す窯屋さん。ONとOFFが逆に点灯するランプ。。。着火エラーのブザーも鳴らないという滅茶苦茶な配線でした。後輩の配線ミスを直す先輩。どう間違っているのかの謎解きに相当な時間を消費し、結局最後は全ての配線を抜いてやり直すことで解決したものの、外はすっかり暗くなってしまいました。そのほか、蒸気を出すとゴミが出てくる調整と、その掃除に数時間。仕込みも製粉もできず、製パン作業が全く出来ない工房に縛られる時間はとても長く感じられました。



プロジェクトBを通して色々な職人さんの仕事ぶりや「こころがまえ」の違いを知れたことは幸いでした。「人の振り見て」ということも「見習うべき」ことも両方たくさん教えてもらいました。また「古きモノを大切に長く使う」という言葉の裏側に潜む「大変さ」を痛烈に体験できたことも、大きな収穫となりました。

古道具は古道具
未だに手を焼いている30年前の窯もそう、40年ほど前の機械もそうで、動かすまでにとんでもない時間と手間と部品の特注が必要でした。手がかかって仕方ない、そんな実感のなかで、少しずつ再生されていった道具たち。そして毎日の通勤の足である30年前の自転車もこの「プロジェクトB」期間中に4箇所の部品交換+1度の故障。一部分解して組みなおしが必要になりました。


古道具を長く使い続けるメリットのために、どれだけのデメリットを許容できるのか。このバランスの中に、モノの価値の真実が隠れているのかもしれません。いくら機能が優れていても、その恩恵にあずかる為にどれだけの投資(時間、労働、金)が必要となるか。そしてその道具、機械を維持するために、どれだけの情熱を持ち続けることが出来るのかが問われます。そして、それだけの価値があるのか?という自問自答も、疲れとともに見え隠れしてきます。

上手くいかないのが普通?
窯の再生と同時に、とある機械の再生にどうしても必要だった道具を特別な仕様で発注していました。待ちに待っていたそれが届き、いざコンセントに差そうとすると、ササリマセン。。。これが「年内納期」という約束のギリギリ、12月26日の出来事でした。届いたのに使えない、そういうオチでした。

一年の最後の最後までトラブル続き。コントのような見事なオチだけれど、困ってしまって笑えません。アレだけ仕様を伝えたにもかかわらず、「サイズを間違えた」そう。工場は明日で仕事納め。部品は別会社から毎回取り寄せているとの事。つまり、年内の部品交換は絶望的です。結局は年内完成が間に合わず、急遽壁コンセントを外し、直結工事で凌ぐことになります。


新年も工事から
というわけで、まだ未完成の機械が残る新春の工房ですが工事のゴールは目前です。皆さんに本当に心身ともに支えられながら長い長い「工房改修+窯再生」がそろそろ終ろうとしています。この「プロジェクトB」は、ピリカアマムという奇跡の自然栽培小麦のまだ引き出せるかもしれない美味しさに挑戦するプロジェクトでもありました。バゲットなど一部のパンに使っていた白い小麦粉を「買わない」と決めた昨年末から、ベースベーカリーはこの自然栽培・緑肥栽培のBIO小麦ありきの「ピリカアマム依存のパン屋」となりました。パンの見てくれこそクラシカルでレトロ。それこそインスタバエない茶色一辺倒ですが、これからも「麦をいかに美味しいパンに出来るか」を楽しむ実験的なパン屋でいたいと思っています。

パン用小麦を使わないBioパン。蕎麦とツルキチ

モクモクゆらゆら
臨時販売の日、寒い外で並んでくださっているお客さんから「わぁ」っという声が聞こえました。覗いてみると外壁のダクトから蒸気がモクモクと外へ排気されていく光景に驚いている様子でした。それほど豊富な蒸気を生成するこの窯ですが、この際に生じる圧力で窯の何処かに眠っているサビやコゲが飛び出してくるゴミ問題が「再発」しました。

窯の下を分解して蒸気発生器に細工を施し、出来る限り錆をはがして、水の流れる勢いと圧力を調整。温度を上げて、あえて過剰に大量の蒸気を強制的に発生させることで出るべきゴミをどんどん送り出す作戦を決行します。工房内には雲が発生し、ゆらゆらと高度を保ちながら残る景色は確かに美しいのですが、動機が動機なだけにあまり喜べない雲です。

工房と雲

 落ち着いたらしばらくご無沙汰の本物に会いに行きたいところですが、願いかなわず「パンを焼かない試運転」を繰り返すことで幕を閉じた2018年、今年もまだ調整を続けます。
名人と雲

ゾウ
太く曲がった煙突からのモクモク、そしてブシューと音を立てて水を吐き出し、加熱に膨大なエサを消費する窯はゾウみたいです。1度動かすためのエサ代も大変で、今月2回の臨時営業だけなのにガス代が凄くて目を疑いました。その内訳の大半が試運転という、なんともな年末。調整のために不器用な「全段同時全開運転」で温度をたっぷり上げる日々、お陰で工房はいつもホットです。


初期設定のままではガスメーターが自動停止する程、想像をはるかに超える大量の天然ガス資源を消費しながら、一個のパンすら焼けない日。そんな工房の床と石臼には再び養生が敷かれて、その上には地球に優しい無駄のない自然栽培ピリカアマムのBIO小麦が鎮座しています。「お前たちは何をやっているんだ、、、」麦にそう言われている気さえする、まさにトンチンカンな現状です。


ゾウを乗りこなすことは「慣れ」だと思っていました。しかし、実際に「慣れる」よりもっと大事だったのは、たっぷりの愛情と大量のエサ。昔々、ゾウに乗って阿呆な旅をしてた時のこと、途中で止まって歩くのを嫌がられたり、ご飯休憩が長すぎたり、もう帰る!と駄々を捏ねられたり、それゆえに工程が押したりした思い出がよみがえりました。

確かに「ゾウ使い」が長けている点は、ゾウを思うように操る技術でななくて、状態を見極める観察眼でした。何を欲していて、何にイライラしているのか、そういう情報をくめる能力が彼らにはある様でした。ガス窯のかなめ、煙突につながるゾウの鼻のように太い蛇腹ダクトの配管に追われながら、「もしかしたら、、、ゾウを飼ってしまったのかもしれない」と思いました。



わだばゾウつかいになる
昨年、完成直後に煙突排気ファンが故障。天井を壊して外してすっかり悲しい気分になった窯の上は、こんな状態になりました。「悲しみは人間の感動の中で一番大切なことだと思いますね~」と笑顔で話していた木版画家の棟方志功。驚くことと喜ぶこと、それらも悲しみに支えられているんだ。と、そんな言葉を残した彼。難しいことは分からないけれど、悲しんだ事で驚きや喜びに繋がれるのなら、あの日この天井の下で悲しんでおいてよかった、と思えます。

何かに没頭し、集中しきって「われをわすれる」事はある事だけれど、「ノミがつくってくれたから僕は何も覚えてない」なんて言い切れる彼はやっぱり天才だったのでしょう。それだけ没頭できる驚異的で憑依的な集中力、それだけ込められる情熱をもってモノをつくれるという姿勢は簡単に真似のできることではありません。彼のパワーにあやかるべく、せめて今宵は「わだばゾウつかいになる」とだけ宣言してみようと思います。

今はゾウに暴れられながらもなだめすかしながら、どうにかパンを焼ける様になった、という感じです。これまでの電気窯よりかなりいい「ゾウ窯」。でもまだ、まだ、まだ、良くなるはずという実感です。 なにせ古い窯です。頻繁な調整という時間の投資とパンが焼けないという我慢の日も必要です。ご老体にムチを打つような事はせずに、長く付き合える使い方をしないといけません。

例えば、パンが焼けた後、熱を撹拌させているタービンの電源を落とすのですが、そのタイミングもなるべく窯の温度が下がるまで待っています。庫内が高温のままタービンを切れば窯を構成しているパーツが長時間高温にさらされることになり、劣化は確実に早まります。OFFタイマーが無いのでその間は工房から出られず、不便を感じるのも確かですが「これは我慢じゃなくて愛情だ」と思うようにしています。

欲しいロボット
ただ、朝の起動タイマーだけは、誰か天才に作って頂きたい。。。2つの起動スイッチのつまみを順番にひねるだけのロボットを、見習いゾウ使いは心から求めています。電気窯には付いていた予約運転タイマーが無いので、夜中に一度起きてONにしてから、もう一度仮眠するという器用さが必要です。ガス窯は温まるのが早い、と風のうわさで耳にしていました。でも、うわさはうわさでした。現状は余熱に電気窯の2倍の時間がかかる大食漢でした。

たくさんの心、ありがとうございます!
12月最後の販売にかけて、実にたくさんの「心」を頂戴しました。皆さんからのお手紙や感想、クリスマスカードや干支の置物、サンタのこけしに素敵な花束たち。その他、ツイッターやメールからのメッセージもとっても有難い「作りがい」となっています。皆さん本当にありがとうございました!本年もどうぞ宜しくお願い致します!


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