終盤戦濃厚也

日々雑感
休業から61日目。とうとう2ヶ月が経ちました。
今週はプロの力が結集したお陰で一気に作業が進みました。ああだこおだと考える時間も見当たらないほどの忙しさが続き、どうやら仕上げの段階へ突入したな、と実感しました。タイトル通りの濃厚な週でしたので、記事も長いです。一気読み注意です☆

ご存知通り、町のパン屋によるハンマーの一振りによって幕開けした無謀な工事。当然の様に大工事へ発展し、数々の大問題を巻き起こしながらも、どうにかこうにか、ようやくココまでたどり着けたのは、間違いなく皆さまの応援のお陰です。アドバイスやメッセージの数々、つたないブログを毎週のように見に来てくださり、近所遠方を問わず工事中の様子を見に来てくださったり、助っ人しますと手伝いに来てくださったり、本職さんがボランティアしに来て下さったり、お食事に誘って頂いたり、、、差し入れのワインやパンが、現場であいてしまったり。。。
思い起こすと早くも、こみ上げるものがあります。本当にありがとうございます!

今週は多くの作業が終盤を迎えました。ここは「PROJECT B」の進行具合をシェアするブログなので、前置きは控え、そんな濃厚すぎた今週の一つ一つを手短にどんどん紹介して行きます!

今週の本題

土間コン+左官仕上げ

9月はほぼ毎日が雨という異常な月。この日も雨のなかコンクリートミキサー車が到着し、真新しいネコ(一輪車)でコンクリートを運び続けます。


間髪いれずに待機してくれていた左官職人さんが手仕上げしてくれます。
ミキサー車が帰り、シーンと静まり返った工房内には「サー、ザー」というコテの音だけが響き、話しかけられない程の緊張感が漂っています。この作業も自分でやるつもりでしたが、その道の職人による「美しい手跡」を残す事を選びました。ここに日々立ってパンを作る、そういう床です。据え置く機材や窯がガタつかないためにも正確な水平が必要です。左官が終わり感心していると「ここからです」と。2時間以上待ってから2回目、また2時間以上待って3回目。外は雨。湿度90%で乾きも遅い一日でしたが仕上がりは見事な美しさでした。


左官屋さんの仕事が終ると食の話題で盛り上がり、この翌日、別の現場帰りにわざわざ「ふるさとの珍味」を届けてくれました。物々交換と名刺交換。宮古島出身、味のある職人でした。「依頼と仕事」その前にも後にも「人と人」であるこを大切にしたいと思った瞬間です。

エアコンドレン配管

この土間コンがある程度乾くまでは静かな作業しか出来ないため、翌日はエアコンのドレン配管の試行錯誤を始めました。8月最後の営業日に「手伝える事があれば連絡下さい」と名刺を頂いたお客様に遠慮なく連絡をし、天井裏に漂う絶望感を打破するべく協力を求め共同作業をしました。ドレンは水の通る管で、家庭用エアコンでは蛇腹ホースで排水しますが、業務用では直管(塩ビ管など曲がらない管)で配管します。目的の穴にどうやって命中させていくか、継ぎ手を駆使しながら、水勾配を確保しつつ、ベターな道を見つけます。ここでも天井高が無いため、「垂直に30cm以上上げろ」と書いてある説明書に従うことが出来ません。そもそも高く見積もっても垂直に8cmしか余裕が無いのに、6m近い道のりを、自由に曲がらない直管パイプで障害物を越えながら、水が逆流しないように常に下り坂に配管しないといけませんでした。いつか漏れるかもしれませんが、これが今ここでできる精一杯。悔いはありません。


外壁取り付け

工房内では配管作業を進め、このタイミングで外工さん2人に来て頂いて、あの強烈な台風にも耐えたベニアの壁にようやく外壁材を取り付けてもらいました。丸ノコが甲高い音を出しながらガルバリウム剛板を直線で切っていきますが、外壁にはダクト穴が3つあり、この部分だけは丸く加工が必要でした。
  1. 窯からの煙突
  2. 窯の廃熱
  3. 吸気口
これら3つの穴を上手に交わしながら、丁寧に施工してくれました。この工期中はじめて職人さんからドリンクの差し入れを頂いてしまいビックリしました。脚立に座って天井を見上げながら、時には職人さんと談笑しながら飲むペットボトルのお茶は特別な味でした。「前日の台風で屋根修復の依頼が殺到していてどうにもならない」との事。そんな中で前から予約していたとはいえ、パン屋の外壁に一日を使ってくれたことに、ちょっとした心苦しさが沸きました。


扉のエトセトラ

続いて翌日、不安だらけのヘビー級のドア作りです。夕方までに終る予定は伸びに伸び、夜の8時過ぎまでかかりました。真っ暗の中、ヘッドライトをつけて設置です。どうしてもこの日に取り付けたかったのは翌日が床塗り予定だったからでした。大変大きな扉なので、工房の真新しい床の上で養生をして直接作りました。これを外に運んで、外壁に設置しない限り、床塗りはできません。


ドア作りだけでモチキリになるほどの話題容量がありますが、今週はまだまだ倍以上あるのでカッ飛ばします!完全にゼロから作る一枚扉。窯を搬入するためには大きな間口が必要で、そのサイズの一枚ドアの既製品が存在しませんでした。安く仕上げようと努力しても、既製品の特注サイズは高くつき、それでいて妥協できるものはありませんでした。外壁は無機質。扉は有機質。シンプルな一枚ドアのスライド式。デザインを練って材を選び、重量計算をして、十分な強度の取付金具を探し、扉を吊るためのレールを固定するアングルを鉄工所に依頼しました。厚み9mmで約2mのアングルだけで約50kg。取り付けも正確さを要するため1人ではとても無理で、頼もしい仲間と共同作業でした。

ヘビー級は鉄工所頼み

この鋼材には取り付け穴が空いているのですが、約1cmもの厚みの鉄に手持ちの工具で14箇所全て正確に穴を開けることは困難なので、穴の加工も鉄工所で施してもらいました。それにしても、重すぎる夜です。ここからさらに持ち上げて、外壁の一番上に取り付けました。真っ暗の中、一人25kg担当の図↓


扉を支える上と下

これに、約100kgの扉がぶら下がります。さらに下にはそれを支えるレールが必要した。下のレールを埋め込むためにサンダーで外床に溝を丁寧に削り、モルタルを流してしっかりと固定。下レールもなかなかの重さで見るからに丈夫そうなステンレス製。この日もあいにくの雨です。外工事+雨+モルタル作業。。。このセットは最悪で、なかなか固まりません。急ぎたいところなのに、異常な雨続きで思うように事が運びません。


当初は扉の内側も無垢材にしようと思ったのですが、厚みが出すぎることと重すぎることに躊躇して薄い金属を貼る案に落ち着きました。クロカワの付いた鉄板でイメージしていましたが、これもまた残念ながら重過ぎる材でした。薄い金属はビス止めすると若干波打つなど問題もありますが、多少のことは「あきらかにみきわめる」作戦で攻略します。


扉の最初の写真で分かるように断熱材をサンドイッチすることで防塵と防音効果も狙いました。木と木の隙間はウラからすべてコーキングし、断熱パネルの青色が見えないように、ホコリも入らないようにしました。内側はこのアルミの板でビス止めし、上下につり金具を設置。

さて、どうやって吊り込むか、もう夜です。4人で運び出しましたがそれでも1人25kg。2人で動かす時は1人50kg。重すぎる夜パート2です。外は手持ちのカメラでは写らないほどの闇夜でした。

なんとか取り付けた扉は色々と改善が必要ですが、指一本で動かせるほどスムースなスライドが実現。この金具の優秀さには驚きました。「通常の1/3の摩擦抵抗」という触れ込み通り。こういうパーツ1つに込められている開発ストーリーは、かなり面白そうです。なにしろ100kgが指一本でスーっと動くのだから、素人にとってはマジックの領域です。軽すぎるので扉が必要以上に動かないように止め金具をつけたいのですが、その後も毎日雨で延期中です。

これをもってファサードの完成!写真は乗せないでおきましょう。現場でスーッと指で開けてみてもらいたい扉です。

外壁が付いて扉が付くともう全てが完成したように見えます。穴だらけの天井と、ビスだらけの壁を隠してくれるのだから、扉は偉い。今夜は初めて扉が入り口をふさぎます。これまでは内側からベニアを打ち付けて帰宅していました。毎朝ドライバーで板を外す作業も慣れっこになりましたが、扉はやっぱり便利です。

晴れ間を狙って室外機に接続

とにかく毎日雨ですが、降らない時間帯にエアコンのガス管・液管の2本を室外機に接続しました。室外機の側面にまっすぐ繋がると思い込んでいたのですが、接続口が背面に向いているため、管を90度曲げないといけませんでした。またあのベンダー作業かぁ。。。と心が折れそうになります。完全なるトラウマです。


2m近いスペースが無いと使えない「曲げる道具」を持っているのですが、1mあれば使える道具は4万以上なのです。プロなら絶対後者を持つべきでしょうがココは意地で頑張りました。2箇所曲げるのにたっぷり2時間・・・ありえませんが、それほどスペースがなく苦労しました。再びあのフレア加工を「優秀な道具」で簡単に施した後は、モンキースパナを2丁がけして締め付けました。ら、ザーっと雨。真空引き作業はまた後日です。

配管の邪魔になりそうな「むにゅむにゅ」が飛び出していたので、ハツリ名人がやっつけてくれました。土間コンのコンクリートが飛び出した残骸なのでとんでもなく硬く、砂利だらけ。。。さすがの名人も苦戦していましたが「手袋は要らない」そうです。。。


一件のメッセージ

ある日、ツイッターに一件のメッセージが来ました。
そこには「塗るものがあれば遠慮なく言って下さいね。」とありました。プロの塗装職人からでした。ツイッターやブログを見てくれていたようで、その様子を心配してくれていた様でした。壁もフードも天井も床も、全部未完成で塗るところだらけ。思いもよらない頼もしい連絡でした。

愛情と人情

それぞれに材質が違うので塗料選びから苦労するべきところを飛び越え、「臭くなくて塗りやすくて」と伝えれば教えてくれて、「床は水性の透明がいい」とお願いすれば用意してくれて、「フードはこの色を再現したい」と伝えたら「近似色をつくる人に相談・発注」してくれて、消耗品も持ち出しで使わせてくれて、大事な道具を貸してくれて、忙しい時間の合間に連日駆けつけてくれて、ガタガタの壁天井を一緒にパテしてくれて、床の全てを一人で3度も重ねて塗ってくれました。この日はもう夜中なので乾くのを待って、翌日また仕上げに足を運んでくれたのです。


こういう愛情・人情に報えるパンが自分に焼けるんだろうか。雨のなか、それも連日、濡れながら車と工房を行き来しては手際よく仕事を進めてくれる姿をみていて、そう自問せざるを得ませんでした。

掃除と養生

「塗装の仕事は掃除と養生です、塗るのなんてワケないから。」スルメのような言葉。シェフなら掃除と仕込みといったところでしょうか。「仕事は人柄」とも聞きますが、”PROJECT B”を通してそれぞれの分野の職人さんの仕事を感じることが出来たのはとても大きな収穫でした。同じ左官職人でも前の左官さんが仕上げた床にモルタルを落としていく人もいました。これなどまさに養生すれば済む事で、その手間をどこまでするかは、「仕事の質」というより「人柄」を現している様に見えました。


一方で彼の養生はペンキの缶をひっくり返しても大丈夫なほど厳重でした。この上にさらに布が敷き詰められ、それが当たり前という風でした。大事な「何か」を今みせられている、そんな気がしました。それは人柄でもあり、謙虚さでもあり、こころがまえだったのかもしれません。

実は先週の記事の最後の項「~こころがまえ~」で紹介した本の言葉には、もう1行の続きがあります。

「・・・千年は生きる建物を造る心構えがいるんですから、坪なんぼやというようなことは考えてはいられませんのや。自分が出来ることを精一杯やる、これが宮大工の心構えというもんじゃないですかな。」・・・その気持ちがなければ法隆寺や薬師寺のような伝統的な建造物は恐ろしゅうてようできませんわ。

と、つづいて章が終わっています。
恐ろしゅうて、とは・・・きっと恐怖ではなくて畏怖の念の事ではないか。そうだとしたら、掃除も養生も、道具も態度も、仕事に対して「かしこまる」心を映し出す鏡なのかもしれません。内から滲み出る態度など意識したところで簡単に身に付くものではなさそうですが、せめて忘れないようにしたいものです。

一件の訪問

静かな工房で天井の穴埋めと作業台の研磨に明け暮れていると、ベニアのドアがノックされました。まだ扉も付いていない日の夜でした。一枚目のベニアを外すと近所の有名パティシエご夫婦。手みあげにパンと、そしてワインを持って。

たしかに名前は「ベースベーカリー」です。
その想いの1つは、登山のベースキャンプからの「ベース」。皆が集まり、英気を養い、作戦会議をしてそれぞれの目標にアタックするための基地で、そこには食糧、情報、仲間、団欒があります。気が付けば人が人を引き寄せ、情報が飛び交い、ワインがワインを呼び、まさにベースキャンプと化したその光景は、窯もミキサーも冷蔵庫もない工房で実現したのでした。手をついたら全てが崩れる即席テーブルは、仲間の温かさであふれていました。


音楽だけが流れていて他には何も無い工房。パンも焼けないパン屋は皆に支えられ、皆に気にかけて頂き、出来ることがあればと助けてもらい、立ち寄って頂き、、、。こういう輪の真ん中に立たせてもらえていることが、どれだけ特別なことかをシミジミとかみ締めた夜でした。

吉報:窯の心臓部、ドイツより到着!
故障していたスウェーデン製のそれにかわり、ドイツからバーナーが到着しました!


取り付けて試運転したところ温度は無事に上昇しましたが、側面温度も60度近くまで上昇!急遽断熱パネルを用意し装備することになりました。まだまだパンを焼くことが出来ないため、温度ムラや焼き時間など調整課題はたくさんありますし、どんなパンが焼けるのかは全く分りません。

それでも「直らないかもしれない」という最悪のシナリオが回避できたことに、心からホッとしています。工房に窯が設置された後、販売の前にしばらくは「窯と親睦を深める時間」が必要です。その間は皆様に、是非ともご協力頂きたいことがございます。

販売できない練習期間の麦を一粒も無駄にせず、それでいて練習が続けられる画期的な方法を見つけました。詳細は追ってご報告させて頂きます!

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