時を越えたモノづくり

日々雑感
休業から82日目。「窯の設置を目前として最後の仕上げに連日追われています。」と書いた先週と大きくは変わっていません。今後の見通しも先週から変更無く、11月中に最初のパンが焼ける(営業再開ではない)予定です。 

お客さんが尋ねてくれたり、手伝ってくれるという奇跡もまだ続いていて、製材は流れ作業で進めることが出来ています。墨つけの人カットの人ヤスリの人。カット1つを比べてもそれぞれの個性が輝く共同作業。一発目からジャストを狙う人やオーバーに切り出してヤスリでジャストに調整する人、さらには、慎重にボンドで張り合わせた後でパーツの上下が逆だったことに気づく人など、、、(私です)。そのミスした接着をうまく剥がしてくれて、やり直しさせてくれたのはお客さんでした。こんな豊かな輪のなかでベースベーカリーを改修できていることに、とても感謝しています。

気がつけば10月最後の更新になるのに窯は未だ搬入ならず。「あともう一歩」がやけに重く感じる正念場は、山頂が近いことを意味しているのでしょうか。 解体や外装内装が終って以降の見た目が大きく変わらなくなってからは、どうしても進行速度が遅く感じてしまいます。しかし一週間を振り返れば確かに、今週も色々とありました。写真多めです。

今週の本題

隙間の引き出し
先週、「もう丸ノコやサンダーをガンガン使うこともしません。」と書きましたが、ガンガンやることになりました。

解体時に出た廃材のカウンターから作った作業台をコールドテーブル(ステンレスのテーブル型冷蔵庫)の上に乗せるのですが、自分には少し低いので、使いやすい高さに木材を噛ませて上げます。すると、この作業台とコールドテーブルの間には「3つの仕切りスペース」がうまれるので、ここにジャストに収まる薄い引き出しを作ることにしました。大きな窯のための改装工事とは言いましたが、よそのパン屋さんに比べれば恥ずかしいほど小さな工房です。今でこそ壁や床が見えていて多少は広く見えますが、機材が並ぶに従ってどんどんと狭くなっていくことが約束されています。隙間をも上手く活用しないといけないのです。


高さ7cm弱という、非常に低い引き出しで、板厚は1cmなので、中に入れるモノは6cmの高さ制限付きです。それでもナイフやスケッパーなど小道具が収まるスペースは重宝なのです。昔、保温械を作ったときの端材が数年ぶりに活きます。この端材だけで3つの引き出しが作れるように、奥行きを逆算して図面を書きました。図面と言ってもイメージ図と要所要所の数字のみ。まるでジャズのような譜面から技術もないのに精度が必要なモノをつくろうなんていう考えが、、、いまだに抜けません。


お助けチームが自然発生し、楽しく助けられながらの作業もたくさんありました。ホームセンターに材を買い足してベースに到着すると、扉の前には大工姿のお客さん。本気度がこれほど明確に伝わる装いは他に無いでしょう。腰にはしっかりと腰袋が下がっていて、腕前はピカイチ。DIYで大きなタンスを造るほどの、女性です。西日を浴びながらの休憩時間、パンが始まればなかなか味わえない良い時間です。


採寸、カット、サンダーでヤスリがけ。ノミでバリ取り。ボンドとネジで組み立てて、圧着は大きなクランプ(まんりき)をササクレだらけの粗材で作って固定。

廃材活用
パレット(荷物を運ぶ台)という役目を終えて、この後は焼却処分されCO2に還るだけの捨てられる材。この辺りじゃ焚き火もできず保管スペースもなく仕方ありません。最後に何かの役に立たせてあげたいので、このクランプになりました。そんな話をすると、別チームのメンバーの1人が「それ、BBQとキャンプの薪にします」とのこと。CO2に還っていく最中まで食材を焼く仕事をすることになった材。遠くから船で数ヶ月間荷物を守る為に働いて、特殊なネジを打ち込まれ、解体されたらすぐクランプに改造され、ようやく引退かと思った矢先、BBQで食材を焼く仕事を一任された見習うべき働き者です。


当初、引き出しなど作る予定が無かったので、「3つの仕切りスペース」のサイズはそれぞれ違っていて、手前と置くでも数ミリ違います。ただの足のつもりで取り付けた材は、まさかの精度を要求されだして、その帳尻合わせには少し時間がかかりそうです。ケバを取り除き、微調整を繰り返してくれたのもお客さん。すっかり暗くなった夕方以降も静かな作業を続けてくれました。これの完成は来週の予定です。


ピールの台
基本的には天板(鉄板)は使わず、窯の床にパンを直接置くスタイルで焼きます。出す時は天板がないので、シャモジの様なものやシャベルの様なもので引っ張り出します。ちょっと説明が難しいので写真を使いたいのですが、現物がまだ搬入されておらず写真も用意できません。そこで想像して見てください。ではいきます!


奥行き1.6mの窯にパン生地を入れる時につかう台がありピールと呼んでいます。その上にパンの形にした焼く直前の生地をならべて、そのピールごと窯に突っ込んで、ピールだけ引き抜くという方法で、パン生地を窯の中に直接並べます。

これを窯入れと呼んだりしますが、窯入れ前にそのピールに最終発酵を終えた生地を並べる作業があるわけで、この段階で生地にカミソリで模様(クープ)をつけたり形を整えたりするのです。さて、このピール作業をするためには、窯の手前にピールを乗せる台が必要なことが想像できましたでしょうか。厚み5cmほどで長さ190cmほどのアルミ製のピールを作業の間支える台を作る必要がありました。生地を窯に入れ終わったら、台は邪魔なので片付けます。そう考えるとある程度片付けやすさも必要でした。昔の棚から再生した材をフル利用しつつ、足りない材は買い足して進めます。1人でも2人でもチームでも、今週は木工作業三昧です。


ハツリ名人の転職
順次仕上がり始めた棚や引き出しや台たち。そのどれも木製なので保護を目的として柿渋を選びました。この天然塗料の歴史は古く千年以上前から使われていたそうで衣類に使われたのは平安時代とのこと(wikipedia)。今では無臭の柿渋、柿渋みたいな何か、など「柿渋」という名前のついたものは色々とありますが、本来の柿渋を京都から取り寄せて使ってみました。とても美しい柿色ですが強烈な発酵臭です。


数日で消えるとありましたが、そんなことはありません。数週間は絶対に必要だと思います。これを塗る作業と塗るのに伴う養生+マスキング作業に手を上げたのはハツリ名人。黙々と塗ってくれていますが、塗り作業は没頭するという中毒性があるようで、あれもこれも塗ろうとします。いまは完成したピールの台を作業台として活用していますが、梁、棚、引き出し、そしてピールの台まで見えている範囲の木肌には全て、柿渋が塗布されています。気がついたら石臼まで塗られそうなので、石臼の養生は最後まで剥がさないことにしておきます。


個人 × 3 ≦ チーム
得意な人もやったことが無い人も一緒になって一つの事を成し遂げようとする姿は、優秀な職人の仕事姿とはまた違った美しさを持っています。今週だけでもいくつかのチームが生まれてその日のうちに解散。「個人的に手伝う」という人が同時に集まった時、その場は「チーム」の働きを獲得することができて、大きな物も動かせるようになります。

工房の床の高さにあわせてステージを作り、養生を済ませて重量物の搬入に備える一人静かな早朝。

機械搬入に集まってくれたチームの中にも、大きなトラックのバックを誘導する頼もしいメンバーのお陰で、ギリギリまで寄せて荷下ろしができました。10個の目がそれぞれの気になる場所を注視し、「オーライオーライ!40cm、あと30cm、20cm、ハーイOK!!」という掛け声の中で連帯感が深まっていった朝9時過ぎ。せっかくの休日に1時間以上もかけて来てくれた人も居ました。




「さて、どうするか。」「俺ならハンマーでぶっ壊す!」「それは危ないからやめたほうがいい」目の前の困難に対してアイデアが飛び交う中で、ドライバーも使わずに日本には存在しない規格のビス(+でも-でもない)を上手に引き抜いたのは、有名国産車の開発に携わる現役バリバリのエンジニアで、この日のチームリーダー。

 
自然発生した屋外ミーティングの姿は、どう見ても最初で最後のチームには見えないカッコよさで、午前の光の中でひときわ異彩を放っていました。それにしても頼もしく親切なお客さまに恵まれていることに感謝せざるを得ません。


棚設置
壁に棚を設置しました。垂直を出す時に使った墨が予想より飛び散り、白い壁が汚れました。。。マスキングをしてハケで塗りなおしです。この壁はベニアで補強した壁で、ある程度の重さにも耐えられるようにしてあります。棚板も全て過去の棚を解体した廃材、もしくは今回の端材です。が、柿渋で塗られる可能性が高そうです。どうなるかは元ハツリ名人に一任します。 このマスキングテープの貼り方は素人は知らない方法で、一本のテープを途中で切らずにコの字に仕上げます。これも謎多きハツリ名人の仕事です。


あの扉の調整
雨と湿度で想像以上に反ることが判明し、指一本でスムースに開閉できなくなった100kg近い扉。その調整に着手しました。吊りレールの穴を広げるための新しいビットを用意。横方向に削ることができる構造ですが、力が逃げるので時間ばかり掛かります。


夕方5時には作業が出来なくなるほど暗くなるこの頃。あっという間にライトが必要な時間です。鉄クズもだいぶ出ましたので削れたはずです。それでもせいぜい3mm程度です、。


レールを戻して扉を動かしてみると、完璧。とてもホッとして、明日が楽しみだと思えた夜。しかしながら翌日にはまた反りが出ていて擦れる様になっていたのでした。。。あとはどこを調整できるのか、ちょっと暗礁に乗り上げてしまった様です。残されたルートは下のレールか。。。あのモルタルでガッツリ固定したレールなのか。。。格闘はまだ続きそうです。

The Art of Artisan ~ 再び ~


先週、最難関の壁をもっとも美しいルートで攻略してくれた常盤塗装。今週もまたすごいARTを見せてくれました。白っぽい塗料でツヤに塗られた真新しい金属レールに表情を与える技術の中から、サビ塗装。新しいものを古く見せるエイジングとも呼ばれるアートな分野です。


養生布はパレットに替わり、塗料は絵の具に替わり、塗装からARTに変わる瞬間、ただの金属レールはキャンパスになりました。手伝えることは何も無く、ただただそのSHOWに見入ってしまいました。


夕方5時を過ぎた時点で暗すぎて見えなくなり終了。「今日は一応完成。でもまた明るい時に見て気に入らないところは直したい」とのこと。この状態で仮の完成。もうどうみても新品の金属レールではありません。

今週続けてきた木工は廃材や古い端材を再利用して新しい機能を生み出す作業でした。それに対してこれは新しいものに古さを与えるというアートです。 屋外という環境を配慮しての塗料選び、「下地は必要なし」という説明書を無視して施してくれた特殊な下地、いつも通り過剰なほどの完璧な養生とマスキング。ご来店の際には是非見上げてほしい、扉の上の時を越えたエイジングアートです。


エアコン、優しさで動く
取り付けにとにかく苦労した天井のエアコン。試運転は怖いので後回しにしていました。冷えるのかどうか、そもそも作動するのか、、、そんな中、駆けつけてくれたのはパワフルな覆面猛者たちでした。柴崎で46年続く中華屋さん「大雄」。ボディービル界のレジェンドとパワーリフティングの全日本チャンピオンが来てくれて怖いモノなし、2トンの石窯もこの3人なら冗談ではなく、どうにかこうにか人力搬入できる様な気がします。そんな彼らにゴム製のやわらかいリモコンボタンを押してもらうという愚かなお願いをして、「壊さない程度に押してください!」と一言添えてからの予行練習。

「いっせーのーせ!でピッだぞ!」

しばらく「し~ん」と動かず、霜取ボタンが点滅。「・・・??」動いたと思ったら、たいして冷えません。。。5分ほどしたら勝手に風量が減り、とうとう停止、、、
最初の試運転ってこんなもんなんでしょうか??説明書に書いていてほしいです。ヒヤヒヤどきどきが止まりません。 15分ほど経ったころでしょうか、猛者たちをも冷やしてくれそうな風が吹き出しました!これでエアコンは完成です。大きな窯の熱は相当なものですが、生地にも人にも優しい環境に、少しでも近づけたらいいなと期待しています。

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