The Art of Artisan

【今後の見通し】
10月も残りわずかとなりましたが、今月中には「窯」が運び込まれる予定です。これと同時にテスト焼きができるわけではなく、その後にガスメーターが設置され、工房設備が完成したのち、保健所による立ち入り検査→合格となってから、「仕込み」となります。

仕込みの流れ
  1. 製粉作業
  2. 酵母の培養
  3. 生地の仕込
  4. 発酵と熟成期間
  5. 焼成
工房内の環境が変わったため、住み着いていた酵母菌にも影響が出ています。これまで以上のクオリティーを目指すための”Project B”ですが、本格的な営業再開は早くて年内といったところだと思います。

Q: パンはいつ食べれるの?

A:  11月を目指します。本格的な営業前に、テストベイキング(試験&練習の焼き)の期間が必要です。この期間中に何度も繰り返し焼き続けます。そのパンを営業再開前に食べていただければと考えています。

【皆さん、どうかお願いします!】
ベースベーカリーが「窯」に慣れて納得のいくパンが焼ける様になるまで、営業再開は致しません。しかし、練習でパンを焼きつづける必要があります。その練習パンの「美味しさ」「焼き加減」はイマイチかもしれませんが、どうにかこうにか食べて下さい。日本最高峰の麦、手塩にかけて育てた有機小麦で焼くパンです。食材は1粒も捨てたくないので、食べることで応援とご協力をお願いします。テスト期間中も本番と全く同じ「最高の麦+最大限の手間」で焼き、そのパンに値段はつけません。これは安売りではありません。お客様サービスでもありません。納得のいくパンが焼けるまで、パンを無駄にせず練習を続けたいのです。どうかご協力の程、心よりお願いいたします。アナウンスはこれまで通り、ツイッターでのみ、致します!

日々雑感
休業から75日目。「窯」の設置を目前として最後の仕上げに連日追われています。作業の姿が板についてきたと、見に来たお客様に褒められて、、、パン屋としては危機を感じるこの頃です。何事も続けていれば多少なりとも、うまくなるものです。

慣れと狎れ
「うまくなる」には「慣れ」が関わっていて、「慣れ」には「要領」が必要です。ところが、この「要領」には「ズルさ」も潜んでいるという事を「慣れてきたころ」に忘れがちです。ズルさの使い方、さじ加減は難しく、うまく使えれば「慣れ姿」。悪く使えば「狎れ姿」。おなじ「ナレ」ですが、意味はだいぶ違います。パン作りにも慣れる怖さは潜んでいます。慣れたことに気が付かず、ズルさの使い方も雑になった態度が「狎れ」。狎れの先が、、、成れの果につながるのかもしれません。飲食の節目、3年目を迎えるにあたり、慣れた窯とも環境とも決別したことは、そういう意味でもプラスに働くといいなと思っています。

今週の本題 


最難関の壁
工房内の全ての壁の中で、塗装において最も難しい壁が一枚ありました。"PROJECT B"の初期、柱移設に際して構造的な強度を保つ為に強化ベニアで作った壁です。塗装まで見据えて、この上に石膏ボードを張っておくべきでした。それをしなかったため、このまま塗ればベニアの表面のテクスチャーが浮き、釘の頭が錆びて塗装色に影響します。実際シーラー(塗装の下地)を塗ると鉄と反応したようで、ほぼ全てのクギの頭が錆び始めました。実はこの一枚の壁こそが手前に機器も並ばない、工房内で唯一丸見えになる壁なのです。1番見える壁が1番の曲者。この夜もあの塗装職人が仕事帰りに、わざわざ工房へ足を運んでくれていました。

見えない仕事
工房内で唯一、丸見えになる「窯前壁」。
手前に何も設置しないこの壁は石窯と向かい合うように位置しています。土間コンを仕上げてくれた左官職人、壁を協力してくれている塗装職人が口をそろえて言っていたことを思い出しました。

「丁寧に仕上げても完成したらほとんど見えなくなる。」

確かに仕上がった床には物が置かれ、壁の前には機器や棚が並び、その後ろに隠れた「仕事」の痕跡に目が向くことは、悲しいほど無いのかもしれません。そこには、ミリ以下の修正を何度も繰り返した技術の「跡」が刻まれているというのに。そう考えると見える壁や床は本当に稀少な存在です。

見せる仕事
見える窯前壁には仕事の痕を残したい。そんな願いに応えてくれたのは一件のメッセージをくれたあの塗装職人でした。最難関の壁を「見せる壁」に仕上げる技術と知恵。それは本来すきまを隠すために用いられるパテとパテべらによるテクスチャー作りから始まりました。普段なら「ムラ無く均等」に仕上げるべき壁を「ランダムな均等」で造っていきます。これは左官屋さんがコテを使って漆喰で表現すべき領域、もしくはアーティストを名乗る人のやる事で、少なくとも塗装屋さんの仕事ではありません。一緒にやらせてもらいましたが人のクセが出てしまい、ランダムのつもりで「規則的な何か」になってしまう難しい作業でした。


Artist  & Artisan ~アーティストとアルチザン~
塗装は職人(Artisan=アルチザン)。ARTは作家(Artist=アーティスト)。一つの仕事道の先には時として別の職種が重なる領域があるものです。これを隔てる見えない壁を、行き来できる柔軟性と智恵、そして確かな技術を持っているアルチザンはいつの時代も稀少な頼れる存在です。屋内外の建物塗装をはじめ、アーティストの領域で行われるエイジング塗装、サビ塗装など、風化の表情を表現することにも精通した塗装の「職人~アルチザン~」。手厚い養生布の上で、職人による美術、The Art of Artisan に魅せられた夜でした。~常盤塗装

痕跡と美

人は美に価値をつける事が好きですが、足元の美にはなかなか気がつかないチャーミングな生き物です。彼の使い込まれたこの養生布が実はジャクソンポロックのキャンバスだったと判明した途端、100億円近い価格で取引される事でしょう。

ジャクソン・ポロック

その2つの違いに触れることはしませんが、こうした一種のジレンマは、突き抜けたアルチザンほど感じる事の様です。志賀勝栄という三宿のパン屋のオーナーシェフも著書の最後のページでこんな言葉を残しています。

「・・・たしかに私のパンは値段が高いですが、フィンセント・ファン・ゴッホの絵の評価にはとても及びませんし。」パンの世界

一方で、有機JAS規格以上の手間と時間をかける小麦生産のアルチザンはこう言います。
「これだけやっても有機小麦になっちゃうんです。」ピリカアマム

それでもやるのか。どこまでやるのか。
それは「なぜやるのか」という問いにまっすぐ繋がります。そしてその答えが「天井裏とこころがまえ~バイブルをめくりなおす~」の項で紹介した宮大工の道具の様に、「自分がどんな人間かを映し出す」のかもしれません。

Artのアト
「Artisan」も「Artist」も途中までは「Art」で、その語源は「技術」です。そのアトの違いは、技術をどう使うのか、その技術でどう生きるのか、きっとそれだけのことです。誤解を恐れずに言うならば、双方とも技術がなければ成り立ちませんが、情熱や愛情は無くても成り立ちます。ただ、その姿や振る舞い、仕事や作品が人に感動を与えられるかどうかは、Artのアトが大きく関わってくる様な気がします。

あかりの質

工房の間取りや立ち位置が変わったため、天井ライトを新設しました。パナソニック、TOSHIBA、マックスレイなど、照明機器のメーカーカタログを片っ端から漁りましたが、驚いたことに100%がLEDでした。もう、当たり前なのでしょうか。数百ページにもなるタウンページ並みのカタログなのに、たった一つの「ハロゲン」や「クリプトン」すら見当たらないのです。結局は中古のハロゲンを直して取り付けることになりました。首の回転方向が限定されていたので、ほしい角度に明かりが届かない個体は全て、金具と配線をやり替えて黒いリングの凸を削りました。この数時間の手間を惜しむと何年も心地悪さが続きます。


消費電力、電気代、電球の寿命、そして省エネの風潮。そのどれを取っても時代はLEDを必要としていることは理解しているつもりでしたが、これほど完璧に削除されているとは思いませんでした。ほぼ一日を過ごす工房の中で浴びる「あかり」は電気です。朝は暗く、帰りも暗いパン屋にとって、日中の太陽を外で浴びられる時間は悲しいほどありません。せめて、自分に合うライトの下で働きたいものです。

便利さと流れの本質
灯りはフィラメントからLEDに、写真はフィルムから.jpegやRAWになりました。音はレコードからCDになり、ダウンロードが主流になり.MP3、.AAC等に移り変わりました。人は「時代の流れ」に乗りながら生きているわけですが、「流れ」というエネルギーは基本的に「下る方向」に生じるものです。便利な流れが向かう先に待ち構えている世界が、自分にとって心地良いのかどうか。想像の域を超えることは出来ませんが、それでも想像力を働かせてみる必要はあると思うのです。少なくとも製パンにおいては、便利さと質は反比例しています。その質の下向を埋める為に添加物(調味料、アミノ酸、イーストフード、香料、保存料etc...)という「補修材」が進化してきました。近年では「保存料無添加」と明記するために、同様の効果が認められる物質を「アミノ酸等」の「等」に入れる需要もある様で、その手法もまた進化を続けています。これも「食の流れ」とはいえ、どこかでブレーキがかかる事を願わずにはいられません。人が便利さを求める時、その質が変わることは世の常です。

天井パズルゲーム

エアコンの取り付け、冷媒配管、ドレン配管で八方をふさがれ、絶望の中から一つのルートを開拓し、ようやくわずかに開通した天井裏。そこへアクセスするために開けざるを得なかった、たくさんの複雑な形状の穴たち。今週になってようやく最後の1ピースをはめることが許されました。この形状の寸法をどうにかして計り、その形状通りに、どうにかして切り出します。上の写真に木がみえますが、これは後に必要なので先に取り付けて置きました。


この1ピースを石膏ボードから切り出して天井穴にハメるわけですが、そこはタダの穴で後ろに何もないので固定できません。そのために天井裏に予め取り付けた先ほどの木にビスで固定します。


パテで埋めて整えて、ハケで白を塗って乾かしてを3度ほど繰り返し、ようやく天井パズルが完成です。一見は白。目を凝らせばさまざまなストーリーが見つかる天井です。このわずかな隙間は、エアコンパテという粘土で埋め、たくさんの想い出は天井裏にしまって完成です。


壁パズルゲーム

仕上げの段階に突入した今週は、先週に引き続き地味な作業がてんこ盛りです。
壁にも、最後の1ピースが残されていました。これは配電作業のために開けられた穴で、コンセントではありません。穴の開いていないコンセントカバーで蓋をして仕上がる予定でしたが、邪魔だな、と思っていました。この穴の周囲には、すでに幾層にもなるパテとペンキが塗られ、完成間際まで来ていたのですが、仕上がりが近づくにつれて「埋めたい」欲求が強くなりました。何といってもこの壁は希少な見える「最難関の壁」で、The Art of Artisan. です。

さっきの天井は石膏ボードだったのでカッターナイフも使えましたが、既にご存知の通り、、、この壁は強化べニアです。丈夫なものに穴を開け、それをまた埋めるという無駄な作業。技術より根気に頼るしかありません。


パテと接着剤がしっかり入り込むように、周囲にもわずかに隙間を設けます。丁寧に切り出した分厚いベニアのダルマさんをシュッとはめたらパテで「ランダムな均等」を施し、乾いたらまたパテで凹凸を周囲と馴染ませます。壁パズルもようやく最後の1ピースが埋まり、ようやく完成しました。作業はまだまだ、まだまだまだ続きます。連日朝から夜までやってもなかなか終わりません、。


天井梁(はり)の直し


こういう電気工具が使いづらい場所は昔ながらの道具が役に立ちます。回転による風が発生しないので、木屑があたり一面に舞うこともありませんが、刃がよく研がれていないと切れません。潰れた箇所や柱の穴はノミ、面取りはカンナという具合に進めますが、取り付けてある梁への仕事なので姿勢が大変です。すべて脚立の上の作業です。


エアコン配管完了
天井パズルが完成したのでエアコンの配管を屋外まで通して終わらせました。先に配管を完了させると、さっきの天井パズルがクリアできなくなるので順番待ちでした。


  • 長さを計算して塩ビパイプを何パーツもに分けてカット
  • 曲げ部品(エルボ)の組み合わせを工夫し
  • 電線やガス管を避けながら
  • 水勾配を確保して
  • 各パーツをタフダインで接着(一番慎重な工程)
この仕事は前日に「手伝いに行きます!」と約束してくれた友人との共同作業。一人ではどうしても出来ない場所があり、それを片づけるための助け人でしたが、彼の器用さが災いして気が付けば6時間!作業につき合わせてしまいました。残念ながらこの日の写真が1枚もありません。”PROJECT B” 始まって以来の写真ゼロの日。途中で食べる予定だったお団子も、帰宅の途中で「たべるの忘れた!」と思い出す始末。それだけ休憩も取らずにテキパキ手伝ってくれて、、、感謝です。

配管を済ませた後は、杉板で工作中の小物造りに没頭。パーツを切り出して削り、組み立てて磨いて完成までこぎつけたら夜。道具の使い方も上手で見ていても安心。作業台も自ら工夫し、電動サンダーも使えた彼は楽器の演奏家です。毎週さまざまな人種がベースベーカリーを訪れてくれて、声をかけてくれたり、力を貸してくれています。本当にありがたいことです。

翌日からの一人作業はリモコン受信機とカバーの取り付けから。取り付け開口枠はあらかじめ白で塗り終えて仕上げておきました。本体の基盤にリモコン受信機を取り付けて接続。


カバーに4つの羽を動かす電線を接続。1人でこれを担いで脚立を上るのは意外と大変でした。25kgの室内機に比べれば楽でしたが・・・


さて、緊張の試運転!!となるはずでしたが、「試運転の6時間前には、電源を投入しておくこと」という一行の注意書きに気が付いて、延期決定。試運転をして動けば完成!というあと一歩のところまで来ました。どうせなら誰かと一緒に、と思ったので試運転ボタンを押す行事は、残してあります。動かなかった時に笑ってくれる人、動いたときに乾杯してくれる人、付き添いの程お願います☆

排気能力合格
仕上げ作業の工房内、もう大きな工事はありません。丸ノコやサンダーをガンガン使うこともしません。この辺で掃除も進めなければいけないので、作業中の換気のために運転していた窯のための換気扇を点検したところ、ちょっと大きな掃除が必要な様です。仕様書によると掃除の対象は「カバーのみ」の様で、中の羽まで洗うには工具を使った分解が必要でした。


想像以上+想定外。木くずは比重が重たいので、換気扇では吸い込み切れず、羽の周辺に溜まっていました。徹底的に水洗いし、新品の状態に戻さないといけませんでしたが、排気能力は合格で一安心です。この換気扇一つにしても、まだ窯がない状態で選んだので、不安も多く、迷いました。吸い過ぎたら冷房も持って行かれる。吸わな過ぎたら工房は熱くなる。まだ窯が無いのでどちらに寄るのかは、わかりません。

ピクニックから帰国

ハツリ職人がピクニックから帰ってきました。おみやげのずっしり重たいおいしいパン。ライ麦100%と古代小麦100%、どちらもBIO(オーガニック)の専門店で購入したそうで1g1円程。これは日本と比べると安い価格です。しかし材料の有機麦粒が日本の1/4で買える国ですから、そう考えるとむしろ高いかもしれません。それにしてもずっしり重たく、上品な酸味が乗ったライ麦パンは、香りがよくてしっとり。古代小麦は酸味が少なくさっぱりとした味わいでパサパサ。唾液を持っていかれてムセること数回。それでもまた7mmほどスライスして、ついつい食べ進めてしまう味。おいしいかどうか、それは「ついつい食べちゃうかどうか」でわかります。なにも塗らない、要らない。このパンもまた、麦、塩、酵母(麦+水)だけで出来ているそうです。でも、現地では、た~っぷりのてんこ盛りバターを塗るのが当たり前なんだそう。


テーブルいっぱいに広がったスーパーで買って来たというBIO、BIO、BIO。日本のスーパーで気軽に選べるようになるには、あと何年掛かるのでしょうか。

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