天井裏とこころ構え

日々雑感
休業から54日目。あと一週間で約2ヵ月が経ちますが、まだオープンは出来ません。
工事を進めながら前回の「パンの話し」で触れた表示について、どのように説明するか、どのような値札にするかを考え始めました。

シンプルで丁寧な方法
 
これまでも原材料は全て表記してきましたが、それだけでは足りないと感じていました。たとえば「全粒粉なのか白い小麦なのか」や、「麦の品種名」という疑問には値札だけでは100%答え切れてはいませんでした。詳しく書けば書くほど値札の文字が増え、サイズは大きくなり、売り場にパンを並べるスペースが減ってしまいます。説明がうるさくなく、シンプルな値札でありながら、全材料の透明性を保つ方法を模索中です。
ご提案がございましたら是非教えてください。

飽食から豊食へ

豊かさの定義ほど難しいものは無いかもしれません。でも仙川の極小ベーカリーが考える「豊かなパン」の定義なら、どうにか勝手に作れそうな気がします。追い求めるいくつもの理想の中で開業以来意識し続けてきた1つは「透明性」でした。パン屋さんで買ってきたパンが「どんなパンなのか」は意外と解らないものです。(パンに限らず加工食品全般に言える事ですが)

 ~ 誤解に注意 ~

 「①天然酵母を使用し」と書かれていたから天然酵母パンだ、とか。「②国産/有機小麦を使用し」と書いてあったから、国産/有機のパンだ、とか。いずれの場合も説明文からのイメージで食べているわけですが、実は①は食品添加物の含まれたドライイーストで発酵させていて、効果の無いレベルのお手製酵母を混ぜていたりします。これなら安定した量産が可能です。②は原価を抑える目的で国産/有機小麦を5%~10%程「使用」した、90%以上が輸入/慣行栽培小麦で作られたパンだったりしているわけです。原価を抑えれば売れ残るほど焼いて処分してもリスクは減らせます。この様な「消費者の誤解を期待した表示」もしくは「消費者が勘違いしやすい表示」というのは、実にたくさんあふれています。だからこそ「選ぶ努力」・「探究心」が必要なのです。

~ 正直さと透明性 ~

 こういう飽食的なパンに対して、豊食的なパンというものがあるならば、それは正直さから生まれるべきだという想いがありました。正直な農家さんの想いに触れているからなお更ですが、そのバトンは消費者まで汚さずにつなげるべき価値があると信じています。使われた材料が隠されることなく全て表示されているパンがあったら、そこにはきっと想いや願いが込められている気がします。そういう材料を使うのなら、その特性を生かすための手間もきっと惜しまないはずです。メリットよりデメリットが多い理想ならば、経営のために実行を控えるべきかもしれません。しかし飽食から豊食へ傾向の修正を望むのであれば、ある程度のリスクに立ち向かう覚悟も必要でしょう。次世代の新しい、透明性に優れた豊食文化が小さな店で生まれたら、とても面白いことだと思います。

今週の本題


今週も色々とありましたが、特にエアコンに泣かされて、そして学びました。店舗やビルで見かける天井に埋め込む四角いエアコン(通称:天カセ)。あれをどうしても新設したかったのです。小さな工房で大きな窯が運転するのだから、そもそも、そのバランス自体に無理があるわけで、1つの無理のチョウジリを他で埋め合わせることは中々困難の連続です。

現状の天井裏に設置すること自体が無理な天カセを、絶対つけると決めて購入して天井にアナをあけたものの、25kgの本体をどうやって吊るのかが問題でした。本来はコンクリーや鉄骨に取り付ける天カセを木造の制限だらけのスペースに「吊りさげる」ための試行錯誤の幕開けです。鋼材を適切な長さに切り出して梁に直接取り付け、それに全ネジ(金属の棒)を通して吊ることにしました。「Lアングル」とか「マルチアングル」などと呼ばれる鋼材ですが、こういう材がちょっと本格的なホームセンターに行けば手に入るのは有難かったです。が、しかし、天カセの厚みに対して天井裏の高さが足りないので出っ張るであろう分を予め下げる大工仕事が必要になりました ↓


天井を切るにも、そのウラに何が隠れているのか分からないので一苦労です。実際、ガス管や切ることが許されない梁(はり)を避けながらの慎重な作業を強いられました。
壁を壊し、天井を壊したら現れたこのホースにはガスが流れています。このスペースに配管する予定でしたが、この数センチ足らずの隙間に配管することは到底無理で、また次の穴を開ける旅が続きます。

  • 天井裏のせまさ+低さ
  • さらに天井裏にガス管が走っていて隙間はほとんど無い
  • 穴の両サイドが梁(はり)で塞がれていて左へも右へも配管できない
  • 業務用エアコンの管が太くて手では曲がらず、特殊な工具が必要
  • その工具を買ったら天井裏が狭くて使えない
  • なんとかしてみたら、管が折れて、心も折れる、、、
他にも数えきれ無いほどの困難の連続。
結局は天井をまた少し、もう少しと壊し続け、小麦粉で汚れるべき人間が石膏ボードの粉をかぶって白くなる始末。苦肉の策で配管の一部を工房内に露出させることでなんとか外まで通しましたが、気がつけば天井は穴だらけ。開けたけれど使えなかった穴をふさぐ仕事が増え、天井ばかり見上げた首はヘンになり「あ~これが無理を押すってことか」と強く実感しました。早く小麦粉で白くなりたい、の図。右手にはクープナイフの代わりにノコギリです。。。



安物買いの銭失い

エアコン設置に使った道具の中から、印象的な一つを紹介したいとおもいます。
フレアリングツールと言って、銅管の切断面をラッパ型(フレア)に加工する道具です。どうせ一度限りだと考えて3,000円の新品を購入し、練習すること20回。どうにも上手くいかないのです。「上手くいかない」というより、毎回精度が違うことに気がつきました。丸くならず楕円気味に仕上がるクセがありました。

 

 力の入れ具合、ネジを回す速度など、職人の経験だけが物を言う道具ではなさそうで、本来は素人でも少しの練習で高精度のフレアが出来るべき道具です。この道具の何がいけないのかをよく観察してみると、
  • 丸い穴自体が少々楕円ぎみでズレている
  • 加工面にキズが多い
  • ネジを締めると全体がゆがむ
ことが分かりました。これが3,000円の道具↓


フレア加工の精度が悪いとガスが漏れる要因になります。仕方ないので再度購入したのがプロが使う道具で13,000円。重さがまるで違いました(価格もですが、。)↓


 そして緊張の練習1回目、拍子抜けするほど簡単に、美しいフレアが加工できました。あれだけ苦労したフレア加工が一発成功です。感動と安堵、そして反省。やっぱり、物事とはそういうことでした。

バイブルをめくりなおす

この体験から学んだことは「道具の大切さ」でした。西岡常一という法隆寺の宮大工が「木のいのち木のこころ」のなかで記していた道具に関する言葉を思い出し、その箇所をめくりなおしました。

「・・・その仕事を成り立たせるのが道具ですわ。道具なしには腕のよしあしはないんです。だから職人は道具を大事にするんです。自分や家族に飯を食わせるのと同時に、自分がどんな人間かを映し出すのが道具です。」 

宮大工の道具は刃物が多く、その全ては自ら納得いくまで砥がれ、場合によっては刃を鍛冶する鉄を持ち込んで自分だけの道具を作ります。この道具次第で木のいのち(建物の寿命)が変わると言われるほど、道具ありきの仕事ゆえの言葉。今回のフレアリングツールと棟梁のカンナを比較するのはアレですが、初動の「どれを買うか」という選択が浅はかだったことは間違いありませんでした。一万円の価格差ですが、その差は素人目にも歴然としていて、むしろ、ここまで違うのか、と思った程。そもそも道具自体の加工精度が優れていました。精度のよいものからしか、精度のよいものは生まれないということ。このプロ仕様のフレアリングツールが作られた工程や素材、製造者の技術や気持ち、その全てのレベルが他より勝っているからこそ「歴然とした差」が生まれるのでしょう。

~ こころ構え ~

どんな窯を持つのか、どんな酵母で、どんな麦を使うのか、、、そしてどれだけ込めるのか。 今週の最後はマイ・バイブルからの引用で閉じたいと思います。

「・・・千年は生きる建物を造る心構えがいるんですから、坪なんぼやというようなことは考えてはいられませんのや。自分が出来ることを精一杯やる、これが宮大工の心構えというもんじゃないですかな。」

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