パンを焼かない日の話し

「通常営業」
ベースベーカリーにとってそれがどういうスタイルになるのか、模索中です。その間は、引き続き臨時営業の枠の中で、パンを焼くたびに告知をさせて頂きます☆

材料調達
年が明けて各種ある程度の本数を焼くようになってから、食材調達にてこずっていました。いくらでも出します!なんて男前な事を言えればいいのですが、「食材の買値はパンの売値」へと反映されてしまいます。今週に入ってようやく進展があり、求めていた4種類の有機食材のうち2種類が箱(約11~13キロ)で確保できました。それでも、半年前より15%以上値上がりした有機カシューナッツです。

オーガニック・カシューナッツの「生」

 その他、レーズンが手に入りました。これは房のまま干して、甘味と旨みが凝縮してから粒だけを集めたオーガニックの「房干しレーズン」です。ワインを飲まれる方は、おつまみで利用していませんか?房ごと干されてパックされている葡萄です。市販品でオーガニックはまず見かけませんが。

ハレ向きなケのパン
そんな房干しレーズン、巷では有機ではない商品の小さなパックしか見当たりませんでしたが、枝をどけた可食部の重量で100g=900円程度と高価な食材です。「ごまレーズン」のパンには Organic の房干しがたっぷりとわれています。こういう美味しい食材だけをつかって、満足度の高いパンを焼き続けたいパン屋の理想を現実にするために、ああだこおだと思案をめぐらせている「パンを焼かない日」。

パン屋の運命
考えて考えて、もうなんだか疲れてきたという頃にいつも思う事があります。
それはこれだけ自由に、好き勝手に、極端なパンばかり焼いている1人パン屋を支持してくれているお客さんが沢山いるという有難さ。これまでに何度も触れてはいますが、これは本当に、本当に、何度でも言いたいほどありがたい事です。どう拘ろうが、どう美味かろうが、どう安かろうが、結局パン屋はお客さんに支持されなければ続けられない運命です。好き勝手なパン屋をやる!と言ったところで、買ってもらえなければ次回の材料も買えないわけです。好きなパンを焼かせてもらえて、なおも続けさせてもらえていることに心から幸せを感じます。

オーガニック・房干しレーズン

理想とするパンとは、「ハレ」向きでありながら「ケ」で食せるパン。パン屋も食材の生産者も食材の販売者も買ってくれたお客さんも、みんなが心擦りきれないパン。そう言って辺りを見渡せば、皆が一所懸命に働いていて、いくつものストレスを抱えながら暮らしている現代。休みがなく、帰りは遅く、食はインスタントで済ませがちな大人たち。焼き続けたいパンが空想の食品にならないように、食べてもらいたいパンが、遠い夢のパンにならないように、ない頭を絞る遊びに興じる「パンを焼かない日」。

別の日
品質のばらつきが激しい、輸入された有機小麦をいじったりしています。

古代小麦の玄麦(粒)

 届いたらすぐに製粉が出来るピリカアマムは格別に異常なのですが、届いてから異常に大変なのが外国産小麦です。それも古代小麦は特に酷い。かつてお世話になっていた北米産有機小麦には、混雑物はほぼありませんでした。まして、石などは見つかったことがありませんが、古代小麦には「石」が「多数」見つかるのです。これは麦の種類というより、輸入会社の管理の問題なのでしょうか。一袋に画像の3倍も「石」が見つかりました。思うに、選別されていないか、すこぶるアマイか。要するにテキトーということです。


 こんなものを食べたくはありません。超硬質な石臼で挽けば砕けると思いますが、そういう問題でしょうか?大手製粉会社の金属性の製粉機は安全面の考慮から石も砕ける仕様だそうですが、いずれにしても「選別機を通せばいいのに」と思います。通しているなら、もう一回通せばいいのに、と思います。それでもかいくぐるなら、もう一度通せばいい話です。

パン屋がこれをやるためには、まず選別機を導入しなければなりませんし場所もとります。狭い工房に大きな石臼があるだけで圧迫感がすごいというのに、選別機まで置くことになれば、一体なに屋なんだかわかりません。しかたないので「精麦」という作業をしながら、目視で手選別をひたすら続ける「パンを焼かない日」。

最悪なのは「石」ですが、それ以外にも剥かれていない粒が目立ちます。かなり多いです。ひつこいですが、イヤになるほど多いです。これを指で剥いて中身を取り出し、貴重な粒を集めるのですが、この地味で成果の少ない労働に多くの時間を費やすことに心が折れます。まぁ、パンを焼かない日なのでつべこべ言わずにやればいいのですが。。。つい、ブーブー言いたくなります。

外国産有機小麦に混ざる厄介者

 画像は一部です。1袋でこの6倍~10倍あります。これを取り除かなければ、外皮が口の中に残るパンになります。目視選別なので100%取り除けるとは思えません。疲れたら休んで、また午後とか別の日にやってと繰り返しても、また見つかる厄介者です。御代を頂いておいて不純物が混ざっていたら大変ですが、力及ばず混ざっているかもしれません、。

一方で、北海道の自然栽培小麦ピリカアマムは、非常にきれいな粒で届きます。届いた時点でこれだけ光っています。嬉しいです。


生産者さんにお願いして現地北海道で精麦作業をしていただいています。パン屋の手間が省けることは勿論、精麦した際に出るヌカが現地では畑に還元できるメリットがあります。東京でパン屋が精麦する場合、出たヌカは栄養価の高いBIOのゴミとなり、奇しくもお金を払って捨てることになるので、出荷前に精麦をお願いしているのです。もちろん、この麦には石は混ざっていません。それ以外の混雑物も極めて極少数です。

色の違う粒を選別する作業場 奥からは麦が排出中

なんと高性能な「色彩選別機」が導入されています。
安価で小型の選別機も存在しますが、それらは振動を与える事で「比重で選別」します。つまり、「重いか軽いか」=「石か麦か」という要領です。しかし、色で選別できるということは、同じ比重でも色が違えば選別できるということです。軽い穀物も、麦と色が違えば選別できる優れものです。これでも100%の性能ではないそうですが、これに2回通しています。これ以外に目視の選別もされていて、その量は年間でトンです。目が心配です。

「これ、製粉所が用意する機械ですよね?農家さんが導入する機械じゃないですよね?」なんていう話を作業場で生産者さんとしました。

「粒を買ってもらったのに、それがすぐに使えないんじゃパン屋さんが大変ですからね」

当然の様にそう言った彼の答えが正しいのか、それとも過剰なのか、むしろ当たり前なのか、はたまた間違っているのか、それはだれにも判断できるものではありません。それこそは「どうありたいか」、「どうしたいか」、「どこまでやりたいか」という非常に個人的な想いに支えられている道徳です。


そんな立派なカラーソーターを2度も通し、さらに目視で選別されたピリカアマムに、非常に珍しく、小豆が1粒だけ混入していました。よくまぁ、あの関所を何度も通過したと感心しました。ある意味では奇跡の小豆です。こんなことは過去に一度もありません。初めてでした。もちろんBIO(オーガニック)な1粒です。麦からすれば混雑物ではあるけれど、なぜか愛しく思えた景色です。おなじ混雑物でも、「そこに気持ちがこもっているかどうか」そのことが受け取る人の感情にこれほど大きく作用するものなのだと、この小豆に教えてもらいました。選別していないから入っている粒と、選別に選別をかさねて、それでも入ってしまった粒。おなじ混雑物だけれど、人の心に残す印象は大分違います。

兎にも角にも古代小麦の選別には大変な手間が掛かりました。とはいっても選別機のない工房での目視の繰り返しなので、まったく完璧とは言えません。そして同時こうも思いました。

「こんな手間をかけるているはずはない。外国ではこのままつかっているはず・・・」

  1. 本場の作法に従う案。
  2. 自分の道徳を通す案。

どちらが正解か、その答えは「どっちが自分らしいか」という事なのかもしれません。

初心と今
「自分の作ったパンを、自分の手で渡したい。」そう思って始めたパン屋でしたが、ご存じの通り2年前からできていません。やりたいことは全部やりたかったので、全部やっていたらダウンした2年前。 好きな事を好きなだけやっているというのに、やりすぎると体はダメになるんだとしみじみ感じたあの頃。そこで「やりたいこと」に順番をつけることにして「全部はやれない」とあきらめたことで今のスタイルになりました。

消去法によってスタイルが見えてきたところで、パンを焼かない日の考え事はまだまだあります。たとえば先の食材、「房干しレーズン」。なかなかの高級食材ですがこれも昨年から23%も値上がりしました。ただでさけ高価な有機食材が、ますます高価になっていて、どうしようかと思います。結局、こういう食材を使うパンの価格を「あがったぶんだけ上げる」ことになるわけですが、上げない選択肢も3つ見つかります。
  1. 食材の質を落とす
  2. 食材の質は落とさず、量を減らす
  3. パンのサイズを小さくする
この3つのどれを採用しても今のパンよりも満足度は減るでしょうけれど、そういう需要もきっとあるはずです。3つのうちのどれを選ぶかは、地域性や客層を見極めて慎重に選択するべきなのかもしれませんが、1人パン屋の危なさと特権で「どうしたいか」だけで決める3つ以外の選択肢もアリです。

美味しいと思える食材達を目の前にして、しばらく焼けなかった「カシューカレンズ」が作れることを喜びました。オーガニック・カシューナッツは仕込の前日にローストして使います。ナッツの中でこれほど上品な甘さは他に知りません。オーガニックではないものと食べ比べて、その味の違いからこちらを選びました。甘い房干しレーズンは使わず、適度な酸味とコクのあるカレンズ(山葡萄)とあわせます。

有機カシューナッツと有機カレンツのパン「カシューカレンズ」

種類もやもや
奥に長~い窯の特性を活かすべく、一段で同じ種類のパンだけを焼くために、昨年末の臨時販売からパンの種類を減らして焼いています。技術と経験が優れていて器用な職人であれば種類を減らさずとも高品質なパンを提供できるかもしれません。でも、ベテランを真似て、自分の器を超えたサービスに手を出すことはパンの質を低下させるかもしれません。そうなるよりは、手に負える範囲を守る方、その範囲で質を上げる方を選びたいと思っています。これからは1日3種類を基本に、週代わりで色々なパンを焼いていこうと思っています。具体的には一段で焼く本数も徐々に減らしています。温められた石の熱がそれぞれのパンに集中するような本数を、探しています。その本数は窯の許容量よりもかなり少なくなりそうです。

そしてまた別の日
外皮の剥けていない粒を見つけてどけながら、ようやく製粉し、その粉の粒子の大きさについてああだこおだしたあと、製粉したばかりの小麦粉を炊いてみました。さらにそれを裏ごして、今度はそれに水を足して煮てみました。もうこの時点で、どうしたいのか、どうしたかったのかの「域」を超えています。「何かに化けるまで、化かしたい。」そんな心境です。「蕎麦がき」ならぬ「麦がき」のような新ジャンルを作って、また、ああだこおだと考えてみました。

逆さにしても落ちないほどの弾力と粘り、麦が糖に化けたウイロウ

ひたすらかき混ぜつづけて、1.5Lの湯が500mlまで煮詰まった時、あたらしい旨さと出会えたのですが、作れて2~3個と気がつきました。。。しかもパンではないということにも、気がついてしまいました。栄養価も良く、消化も良く、外皮もわからないほど滑らかです。5日かけて発芽させたので、酵素も豊富です。甘さもあって食感も面白い、けどパンじゃないし2~3個しか作れないというコレ。名前も分からないので「ムニャムニャ」としておきます。。。

パンは麦の化け物です
パンの王道をいく潔さも見習わないといけない、そう思いましたが、また明日にでも挑戦してみます。パンも、このムニャムニャも、同じ麦の化け物仲間です。ここに酵母を入れたら?これを低温で熟成させたら?そんな実験と遊びの「パンを焼かない日」。パンを焼く日に何らかの形でぜひとも役立ってほしいものです。

神とお化け
目に見えない酵母が支配するパンという発酵食品に、神をみる人々もいます。宗教的な背景からキリストの体とする人もいます。それぞれの人にとってそのどれもが正解ですが、ベースベーカリーにとってのパンは「お化け」です。麦の粒がどう化けるのかという飽くなき遊び。パンを焼かない日、山の誘いを断ってお化け遊びに興じた今週です。誘ってくれた名人は新潟の山中で今年一番の雪に当たったようで、「ヤバい、大当たり」とメールが来ました。パウダー三昧のようです。あれはあれで、「オバケ」です。

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